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2022年11月26日 (土)

デジタル・デモクラシー――ビック・テックとの闘い ①

内田聖子(PARC) 共同代表。自由貿易・投資協定のウォッチ、政府や国際機関への提言活動を行なう。

   私たちが生きる世界の現実

 2022年夏、ビック・テックによる根深い支配の現実を突きつけるような二つのニュースが舞い込んできた。

 一つは8月上旬、米国ネブラスカ州で、飲み薬を使って中絶したと見られる。18歳のセレスティ・バージェスと、その母親ジェシカ・バージェスが、複数の罪で追訴された事件だ。逮捕の決め手になったのは、Facebook メッセンジャーでの二人のやりとりだった。同州では、妊婦の命が危機に晒されている場合を除き、妊娠20週以降の中絶は違法とされている。警察は2022年4月末、当時17歳だったセレスティが流産し、遺体を埋めたという内密情報を得た。

 警察は彼女の診療記録を入手し妊娠23週目過ぎに当たることを確認。彼女と母親を取り調べると、二人は「死産であり、胎児は自分たちで埋めた」と供述。この過程で、警察は死産したとされる夜に、セレスティがFacebookのメッセンジャーを使って母親とやりとりをしたことに気づいた。Meta(旧acebook)に捜査令状を発行し、二人のアカウント情報の提出を求めると、Meta は二人のメッセンジャーや検索履歴などの個人情報を提供。そこには、「今日、(中絶薬を)飲む?」「証拠を焼却するのを忘れないで」などの生々しいやり取りがあった。

 中絶をめぐっては、全米を分断する論争になっていることは周知の通りだが、この事件によって、SNS 上の個人情報が中絶禁止法の執行に利用されかねないこと、企業が法執行機関にどのように協力するのかという現実が浮き彫りになり、大きな論争を引き起こした。

 もう一つは、Google に関するもの。

 サンフランシスコ市に住む専業主夫のマークは、2021年2月、幼児である息子のペニスが腫れ、痛がっていることに気づいた。コロナ禍の最中で、医療機関にかかるのも容易ではない。マークは症状を医師に説明するための記録として、スマホで息子の患部の写真を撮った。その後、病院の予約を取った際、看護師は事前確認のためその写真をメールで送るようにマークに指示。診察後に息子の症状は無事回復。

 しかし、父親であるマークの災難はここから始まる。写真を送信してから2日後、彼の携帯電話に「Google のポリシーに著しく違反し、違法である可能性があります」との警告が届いた。そして、「有害コンテンツ」のやりとりをしたとしてアカウントは無効化された。不可解に思っているうちに、すべての Googleアプリの利用許可が止められたのだ。そう、かれは「児童ポルノ写真を送信した」との嫌疑がかけられたのだ。

 長年蓄積した連絡先メール、家族の写真を失い、彼は警察の捜査対象になった。送信先は医師であり、AI の判定ミスだとGoogle 何度も説明したがアカウントが回復する目途はない。それまで何の問題も感じず利用してきたが、仕事や生活に大きな支障をきたして初めて巨大企業の力を思い知らされた。

 ビッグ・テックが構築してきた堅牢な世界について、私たちは時折このように小さな綻びからその実態を覗き込む。彼らがどのように私たちのデータを収集し、蓄積し、取り扱っているのか――。

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