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2022年12月 3日 (土)

デジタル・デモクラシー――ビッグ・テックとの闘い ⑥

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 これらは単一の運動でなく、教授が言うように「集団行動」(collective action) として深化している。共通の目標に向かい、組織形態や分野、活動スタイルの違いを超えて、それぞれの強みを生かす形だ。ビッグ・テックがカバーする領域は広く、技術的な専門性も必要であるため、当然の運動スタイルであると言える。

 一例を挙げると、ブラジルでは集団行動の力を活かし、コロナ禍おける政府と監視企業の横暴を封じ込める事例がある。元来、ブラジルは、インターネットの民主的なガバナンスいついて先進的な取り組みをしてきた国だ。1995年には多様な利害関係者で構成される「ブラジルインターネット運営委員会(CGI.br)」が設立、2014年には、当時のジルマ・ルセフ政権がインターネットにおける公民権フレームワークである「マルコ・シビル」を可決。2018年にはブラジル議会が欧州一般データ保護規制の影響を強く受けた、ブラジルの個人情報保護法(LGPD) 可決。こうした背景には常に市民社会からのチェックと提言があり、日本の私たちが学ぶべきことが実に多い。

 しかしパンデミック下、ボルソロナ大統領は国民全体を対象に、データ収集および監視インフラの構築を始めた、ボルソロナはすべての連邦機関に対し、国民の健康記録から生体認証情報にいたる多様なデータを「市民基本台帳」に強制的に統合する法案(CBC法)署名したのだ。議論や公の協議が一切ないまま署名されたこの法令に、多くの人々は驚いた。また政府は、プラットフォーム企業に都市部のヒートマップを作成、許可された数以上の人が集まっている場所を示させたり、移動の追跡を行なったりした。これらデータは規制の緩い企業に移転された。

 これに対し、「データプライバシー・ブラジル」「インターネット・ラボ」「インターネット運営委員会」などの市民社会団体がまず反対の声をあげ、弁護士やジャーナリスト、リオ技術社会研究所などの研究機関も加わり、大規模な反対運動へと発展した。最終的には、軍内部からの批判に加え、自由とプライバシーに及ぼす脅威があるとの声が上がり、CBC法の執行は棚上げとなった。正に集団行動の勝利だ。各国だけでなく、「ラテンアメリカの監視・技術・社会研究ネットワーク(Lavits)」のような研究者・技術者も含めた取り組みも活発だ。

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