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2023年2月20日 (月)

Clinical 正確で効率的な歯科総合診断 ⑧

続き:

6. システム 1 メタ認知的使用

 では、臨床推論におけるシステム 1 の使用のコツが何なのかを、ベテランのスナップ診断のプロセスから考える。スナップ診断の誤診は、疾患の所見パターン検証時に、(+)の所見にのみ注意を向けることで、(−)であるべき所見が(+)である等のパターンからの逸脱、所見間の矛盾が見逃され生じることにういてすでに触れた。ベテランになるほどスナップ診断の成功率が上がるのは、所見間の矛盾に気が付くからであると思われる。

 しかし、無意識的に行なわれるシステム 1にどのような気付きのチャンスがあるのだろうか。礪波は、物語的思考の持つ、つなげて考える性質と、後で認知的不協和のメタ認知能力がそのプロセスに関係していると考えた。

 

!) 物語的思考 

 物語的思考は自分の個々の体験を結び付けて、それらの関係に意味付けする思考法で、ナラティブベースドメディスンという言葉によりご存じの読者も多いだろう。分析的・論理科学的思考が文字通り事物を切り分けて正しさを追求するのに対し、物語的思考は事物をとにかくつなげ、全体としての意味を作り出すことを優先する。そのため、物語的思考の正確さは論理科学的思考に劣るとされる。しかし、得られたすべての情報をつなげて全体として整合性のつく説明を求める診断は実は物語的思考的側面を持ち、そこにベテランの「つなげる経験(物語)」の豊かさが影響する可能性がある。

 

2) 認知的不調和

 情報間の整合性を検証するプロセスには認知的不協和が関係。認知的不協和とは、考えと行動の間で矛盾が生じた状態、あるいはそのときに感じる不快感と定義。例えば深酒は身体に悪いと判っている、でもでもやねることができないという状況は、考えと行動が矛盾しており本人にとっては不快だ。そのため、人間は認知的不協和を感じると、これを解消しようとする。この時、合理的に解消するのであれば飲酒を制限することになるが、行動を変えるには莫大なエネルギーが必要。そのため、「お酒はストレス解消になる、だからやめることはできない」と考え方を変化させ飲酒を正当化する。このように、認知的不協和の解消を自動処理すると、矛盾する所見によって生じた認知的不協和を自動処理することで、想定疾患の変更という意思を伴う行動でなく、矛盾の気付きという認知のほうを変更し、誤診を招くことになる。

 

3) メタ認知

 おそらくベテランは情報間の整合性を検証するプロセスにおいて、認知症的不協和を感じた時それをスルーせず、「なんか変だぞ」と立ち止まることができているのではないか。自分の思考過程をモニタリングする、認知を認知することをメタ認知というが、ベテランはこのメタ認知能力が発達しているのだろう。以上より、正確で効率的な歯科総合診断を行うコツは、臨床推論のシステム 1思考過程のメタ認知的使用にあると考える。

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