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2023年2月21日 (火)

Clinical 正確で効率的な歯科総合診断 ⑨

続き:

7. メタ認知のポイント

 では、正確で効率的な歯科総合診断を行うために、具体的にメタ認知を行うべきであろうか。

1) 疾患の想起

 診断初期において、スナップ診断では検討すべき疾病をひとつ、仮説演繹法であれば複数想起することとなる。これを意識しないで行うと、利用可能性ヒューリスティックの影響により、自身の専門性や直近の経験などの影響を受けた疾患を想定することとなる。勿論、自分の得手とする分野から攻めるのも先約としてはあり得るが、もし意識してバイアス排除するならば、最もありそうな疾患ないし診断リストを想定するのが望ましい。「蹄の音お聞いたら、シマウマでなく馬を探せ」という格言にある通りだ。

2) 整合性の検証

 次のステップでは、想定された疾患の所見パターンを目の前のケースに当てはめ整合性を検証していく。基本的方針としては、想定された疾患に反する情報が一つでもあり、それにもっともな説明がつかなければ想定は誤りと判断する。凡例をたったひとつ挙げて論敵を切り捨てる論法は「オッカムの剃刀」と言われて、効率が良いため中世のキリスト教神学論戦でよく用いられたそうである。

3) 時間軸の考慮

 所見パターンの整合性は、時間軸に対して横断的なものと、縦断的なものの 2 方向について意識的に検証することが診断の確度を上げる。時間横断的な検証では、所見が同時に観察されることに矛盾がないかを検証する。例えば ★症例 1 は患歯の臨在歯打診痛が矛盾と認知され、臨在歯の再検証のきっかけとなった。因に、本学の歯学科学生初診実習であすべてのケースに対し、チェアーサイドで簡単に確認できる所見を表形式で記載。これは所見全体を俯瞰でき、所見間の矛盾をより発見しやすくなる。

 時間縦断的な検証では、想定される病態の変化と現病歴およびその後の経過に矛盾がないかを検証する。症例 1、2は紹介元の治療が奏功しなかったことが診断を見直すきっかけとなっているが、このように本来生じるべき介入効果が認められないことも、時間縦断的な検証において矛盾と判断される。

4) 追加所見の必要性

 想定された疾患の所見パターンに矛盾がなければ診断確定となるが、矛盾が生じた場合、次に検証すべき疾患の選択をメタ認知的に行う。矛盾を包括する所見パターンをもつ別の疾患の選択となるが、情報が足りなければ検索範囲を広げ追加所見を集める。症例 2 は慢性歯周炎から歯内治療領域に診断参照枠を変更した例。決め手となったデンタルX線画像の追加所見は、時間横断的な情報参照枠の拡大・変更と言える。治療介入も時間縦断的な診断のための検索範囲拡大となりうる。治療的診断あるいは診断的治療と呼ばれるものであるが、時間の経過とともに情報が追加され診断の正確度が増すのは当然のことで、後医が名医となる所以である。

 

8. まとめ

 歯科総合診断にシステム 1 的思考は必須のプロセスと考え、その欠点をカバーする方略として、システム1のメタ認知的使用を提案した。本来、無意識下で行われるシステム 1 の思考過程を認知的に行うことは、システム 1 システム 2 を協働させることでもある。これは二重過程理論を提唱した Kahneman の、システム1 とシステム 2 は相補的に用いられるもの、という見解と一致。

 メタ認知的をはじめ行動諸科学は様々な分野で問題解決に活用されている。これらの理論を診断のみならず、歯科臨床全般に応用する歯科医学の発展に大きく寄与すると考える。

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