デジタル人民元その狙いとは? ⑥
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🔲どこへむかうのか?
中国の主張について、中国人民銀行デジタル人民元研究開発業務グループの報告書「中国デジタル人民元研究開発進展白書」(2021年7月) コンパクトにまとめている。そこには 4 津の目的がある。
第一に現金の立ち位置の変化である。2019年に実施した調査では個人の決済の66%がモバイル決済で行なわれて、対象者の46%は調査期間中に一度も現金を使わなかった。一方で、現金の市中流通量は2016年末の6.83兆元から2020年末には8.43兆元と増加。そのため現金を維持するためのコスト(紙幣の印刷やニセ札対策、ATM設置費用)などが問題視されるようになっており、この問題意識は通底している。
第二に暗号通貨対策があげられた。投機やマネーロンダリングの手段として使われることが多い暗号通貨に対抗するために、公的な電子マネーを用意する必要あり。
第三に国際環境だ。世界中がCBDCの研究を進めているなか、中国がおくれるわけにいかないという。日本では先行するデジタル人民元にどう対抗するかという話ばかりが目立つが、人民銀行は国際的なトレンドに乗っかっている点を強調する。
第四に安全で包摂的な新型決済インフラの需要をあげている。国土が広大で、所得、地域、世代、学歴、民族など中国にはデジタル・デバイドをもたらす要因が多い。こうした課題を解決して金融包摂を実現することが求められる。
金融包摂の成功例の――――――中国発のイノベーションである信用スコア。日本をはじめ世界各国で類似サービスが導入しているが、ネットショッピングの利用履歴などから与信判断を行うことで非正規職や年収が人々でも融資を受けられる可能性を広げた。他にもドローン操縦士の信用スコアというユニークなサービスも生まれた。農業撒布を請け負うフリーランスのドローン操縦士が機体購入や修理に必要な資金を借りるための与信審査を行うサービスだ。
モバイル決済やデジタル人民元では報酬を得たいうデータを活用しやすく、こうした応用サービスが作りやすい。特にデジタル人民元は特定企業のサービスではなく、現金の代替という公的な役割を持つだけに、企業を越えた応用サービスを作り易いという側面はある。
現金コストの削減や新たな金融イノベーションの必要性といった大きな方向性は世界共通のもの。国ごとに事情の違いはあり他国の事例をそのまま導入できないとはいえ、社会課題の解決にどのようにアプローチしているのかという事例はきわめて貴重だ。脅威を喧伝する前に、まず、虚心坦懐にその取り組みを見つめ評価すべきだ。
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