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2023年3月21日 (火)

デジタル人民元その狙いとは? ⑤

続き:

🔲改めて脅威論を考える

 このようにデジタル人民元の現実を見ていくと、初めに述べたように脅威論がいささか的を外していることがご理解いただけるのではないか。

 世界第二の経済大国となった中国がドル覇権に挑戦する――このこと自体は決して突飛な話ではない。巨大な貿易黒字を積み重ねてきた中国は巨額の外貨建て資産を持つが、それは米国の金融政策とドル価格の変動に大きく左右されるとのリスクにもつながる。

 ドル覇権への挑戦がもっとも具体化したのは 2009 年だろう。周小川・中国人民銀行総裁(当時)が「国際通貨体制に関する考察」と題した論文を発表し、ドルを中心とした国際通貨体制には限界があると発表。論文は理想的な基軸通貨は世界経済全体に配慮する必要があるが、特定国の通貨は自国の経済状況と利益を優先させるため、世界経済を不安定化させるリスクがあると指摘している。リーマンショック後の状況を踏まえての指摘だが、米国の激しい利上げに伴う通貨変動リスクに直面している現在でもビビットな課題である。

 周総裁は解決策として、国際通貨基金(IMF)の特別引き出し権(SDR)に基づく国際基軸通貨を創設すべきだと主張した。SDRとしは 1969年に創設された国際準備資産であり、IMF 加盟国の出資金に比例して加盟国に配分されている。その価値は主要国際通貨のバスケット(加重平均)によってきめられており、2022年8月に更新された比率は米ドル43.38%、ユーロ29.31%、中国人民元12.28%、日本円7.59%、英ポンド7.44%となっている。米ドルが最大の比重を占めているとはいえ、完全にドル建ての現在よりはいくらかましというわけ。このSDR基軸通貨化構想は大きな話題を呼んだが、結局実現せず下火になっている。

 具体的な成果を残した、「ドル覇権への挑戦」もある。それが金融機関の国際決済だ。一般的に国際銀行間通信協会(SWIFT)のシステムが利用されているが、効率が悪くコストが高いという問題を抱えているほか、米国や欧州の意思によって方針が決まるSWIFTへの依存には政治的リスクも存在。それが顕在化したのがロシアのウクライナ侵攻だ。制裁措置として、ロシアの主要銀行がSWIFTから排除された。

 中国は2015年に人民元の国際銀行間決済システム(CIPS)を導入。SWIFTと同様、世界各国の加盟金融機関の間で資金を流通させるための仕組みである。2022年初頭時点でせかいの103の国と地域にある金融機関約1280行が参加しているという。年々、決済額は増加し、2021年には約80兆元(約1600兆円)に達したというが、決済額が平均1日5兆ドル(約690兆円)に達するSWIFTとは対抗できる規模にはない。

 ただ、そもそもから、中国は人民元覇権を打ち立てる準備ができていないことにも注意するべきだろう。国際金融のトリレンマと呼ばれる理論がある。「対外的な通貨政策において、為替相場の安定、金融政策の独立性、自由な資本移動の 3つのうち、すべてを達成することはできない」との内容だ。香港など一部の特殊な例外を除いて、金融政策の独立性は放棄できない要件だ。となると、為替相場の安定か自由な資本移動のどちらかをあきらめるしかない・

 基軸通貨を目指すには為替相場の安定をあきらめ自由な資本移動を実現することが必要だが、中国共産党はリスクの高い選択肢だとして、むしろ資本移動を制限する方向にある。ゆえにデジタル人民元によって国際的な利便性を高め、世界での人民元利用を促進しようとの考えは薄い。

 また、デジタル人民元はプライバシーに配慮するための技術をわざわざビルトインしている。完全な匿名性が実現されるわけではないが、現行のモバイル決済よりも配慮があることは間違いない。

 ドル覇権への挑戦や国内統制の強化が狙いでないとすると、デジタル人民元は何を目指しているのだろうか?。

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