デジタル人民元その狙いとは? ④
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マネーロンダリングや金融犯罪の抑止など、資金移動の監視強化は中国のみならず世界的な趨勢である。現物の紙幣硬貨ならば完全な匿名性が得られるが、モノという物理的な制限から移動には制限がかかる。ビットコインなど暗号通貨は高い匿名性と電子取引の利便性とを両立させるだかに金融犯罪の手段として使われてしまう。
その間でいかにバランスをとるかが問われている。易綱総裁は前述の講演で、「匿名と党名ははっきりと白黒をつけられるものではないことが判った。その間には多くの細やかな問題があり、慎重にバランスを取る必要がある。特にプライバシー保護と違法活動取り締まりの間では正確なバランスが求められる」と発言している。
さて、このような特徴、仕組みを持つ人民元だが、中国ではどれほど活用されているのだろうか。デジタル人民元の研究は2014年からスタートしていたが、2019年末、ついに深圳市、蘇州市、雄安新区、成都市など一部地域で試験運用が始まった。抽選で選ばれたテストユーザーに200元(約4000円)のデジタル人民元を配り、実際に使ってもらうという形式だった。その後、試行地域は拡大されていき、現在では北京市、深圳市、上海市、天津市など15省市の、560万ヶ所以上の店舗で利用可能となっている。
試験運用開始から 2022/08/31、までに 3億6000万回の決済が行われ、その累計決済額は 1000 億元(約 2 兆円)を突破したと発表。
この数字だけだと順調に普及しているかのように錯覚するが、全体から見ると、微々たるもの。中国のキャッスレス決済の利用額は2021年に280兆元(約5600兆円)を超える。施行地域が限定されており、利用者が少ないことが最大の理由だが、実際に使った人の話を聞くと「今のところデジタル人民元を使う理由がない。好奇心で試しただけだ」と話していた。繰り返しになるが、中国ではモバイル決済が普及しており、お店での買い物も友人への送金にも対応している。デジタル人民元にしかできないことは現時点では存在しない。
普及率を高める要因も現時点では想定しがたい。日本ではチェーン店や大型店はクレジットカードやモバイル決済への対応が進んでいるが、個人商店などの小規模事業者での普及率が低い。高いハードルとなっているのが、決済手数料だ。小規模店舗の場合、平均で決済額の 4~5%もの手数料支払う必要がある。一方、中国では0.6%前後と低水準に抑えられている。それでも、まだ高額ではないかとの批判する、日本とは全く状況が異なる。現金の同等物と規定されているデジタル人民元は決済だけでは手数料は発生しないとはいえ、モバイル決済では売上や顧客、在庫管理、又は割引クーポンを発行して再来客を促す仕組みなどの関連サービスが充実していることを考えると、小規模事業者が積極的に乗り換える動機は少ないだろう。
ハードウェア・ウォレットの普及に伴う高齢者の利用増や辺境地域での普及が転機になる可能性もあるとはいえ、まだまだ先の話とし言えそうだ。中国人民銀行も正式サービス開始のタイムスケジュールは白紙であると言明しており、焦って広めるムードはない。
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