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2023年4月12日 (水)

Science 嚙みしめと運動の関係 ~遠隔促通の正しい理解~ ④

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 いくつかの報告はこれらの仮説に否定的な結果を示しており、いまだ明らかになっているとは言えない。しかし、近年の報告では遠隔促通が大脳皮質内で形成されることを示唆して又はいる。

 Tazoeらは、大腿四頭筋を遠隔筋として足首を固定した状態で膝を伸展させようとする運動を行い、TMS (Tr anscranial Magnetic Stimulation : 経頭蓋磁気刺激)による橈側手根屈筋の単収縮時の筋電図活動を記録し遠隔促通について調査。(図 略)それによると、大脳皮質一次運動野への磁気刺激によって橈側手根屈筋の単収縮を誘発した場合、大腿四頭筋の収縮は橈側手根屈筋の単収縮の促通を引き起こした。

 その一方で、大後頭孔レベルで皮質脊髄路の磁気刺激を行い橈側手根屈筋の単収縮を誘発した場合、大腿四頭筋お強く収縮させても橈側手根屈筋筋電図の振幅に明らかな変化なく、促通は観察されなかった。これは、遠隔促通には大脳皮質一次運動野領域の上位運動ニューロンの神経接続が関与しており、脊髄での神経回路の関与はないか、あっても限定的であることを示唆している。

 また、遠隔筋として大腿四頭筋を収縮させる時、手加減して 75% MVC 、あるいは 50 % MVC の力を出す時よりも全力で力を出し続けて疲労によって 75 % MVC または 50 % MVC 相当まで下がってきたときの方が促通効果が高いことを明らかにしている。これは遠隔促通には遠隔筋の筋活動大きさそのものよりも、筋肉を収縮させようとする努力レベルのほうが重要であることを示している。

5. 嚙みしめが実際のスポーツに与える影響

 実際に嚙みしめがスポーツにおける特定の動作に対してどのような影響を与えているのか、森田らの教室で行った実験を基に実例を紹介する。

1) ラグビースクラムの場合

 ラグビーでは、反則が起きた際や試合が動かなくなった時のプレー再開のために 8 人ずつのフォワードの選手がスクラムを組み、そのスクラムの真ん中に投げ込まれたボールを押し合って奪い合う。スクラムはラグビーの中でも非常に強い筋力を必要とするプレーの 1 つだ。実戦におけるスクラムは、単純な等尺性収縮ではない複雑な運動であるが、実験ではスクラムのトレーニングに用いるスクラムマシンを押すというシンプルな運動に置き換えて調査した。スクラム力は、キャスターをつけたスクラムマシンと壁とをつなぐワイヤーに加わる引張力 を、ワイヤーの途中に介在させたロードセルで計測した。ブザー音に合わせて 3 秒間全力でスクラムマシーンを押したと時のスクラム力と咬筋、胸鎖乳突筋、広背筋、外側広筋、ヒラメ筋筋電図の同時記録を行い、%MVC を算出するためにそれぞれの筋について 5 秒間の最大随意収縮時の筋電図も別にレコードを取った。

 スクラム力は、スクラムマシンを押し始めた直後に見られるピーク波形を基準として、前後 1 秒間をスクラム力および筋電図活動について分析を行った。実際に計測を行った項目は、①スクラム力のピーク前後各 1 秒間の波形の積分値(面積値)、②押し始め直後のピーク振幅(ピーク値)、③ピークの 0.25 秒後から 1 秒後までのピークを含まない部分の区間の平均振幅(プラトー値)の 3 項目である。

 スクラムの際に嚙みしめをするかしないかは人それぞれである。ラグビー選手 29 人を対象にスクラムマシンをを押す際の嚙みしめ状況を調べたところ嚙みしめをする選手は 13 名(45%)、嚙みしめない選手は 16 名(55%)と特に顕著な傾向なし。

 スクラム時に嚙みしめをするグループ(嚙みしめ群)の咬筋筋活動はおよそ 50 % MVC で、非常に強い嚙みしめを行っている。嚙みしめ群と嚙みしめないグループ(非嚙みしめ群)の間でスクラムマシンを押したときのスクラム力に有意差はなし。しかし、嚙みしめ群に対して、意識的に嚙みしめを行わないように指示してスクラムマシンを押してもらうと、スクラム力は有意に減少した。逆に非嚙みしめ群に対して、意識的に嚙みしめながらスクラムマシンを押すように指示すると面積値では有意なスクラム力の増加が認められた。

 スクラムに関しては、普段嚙みしめをしない選手に嚙みしめをするように指導するのは効果がないとまで言えないものの、そこ効果は限定的だ。嚙みしめをする選手に対しては嚙みしめを禁じることはスクラム力の低下につながる恐れがあるので、できるだけ気持ち良く噛めるような介入、例えば適合性に優れた正しく咬合調整されたマウスガード(MG)の作製などが効果的である。

 また、MG は本来コンタクトスポーツにおける外傷予防を目的として装着されるものであるが、50% MVC 近い強い嚙みしめが高頻度で行われるとすれば、嚙みしめに伴う過剰な負荷から額口腔系を保護する意味でもその装着が強く推奨される。

 スクラムをする際に、嚙みしめを行う被験者のみを対象に、スクラム力の開始時間と各筋の筋電図活動の開始のタイミングを比較すると、咬筋および胸鎖乳突筋はスクラム力の開始よりおよそ 200 ms 先行して開始し、ヒラメ筋と外側広筋はそこからおよそ 100 ms 遅れて活動開始、その後スクラム力が発生していた。

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