Science 嚙みしめと運動の関係 ~遠隔促通の正しい理解~ ③
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2. 咀嚼筋の活動による遠隔促通
強い力を出す時に、歯を喰いしばばることから考えても咀嚼筋による遠隔促通は、日常生活の中でも無意識のうちに応用されていると考えられる。Miyahararaらは、ヒラメ筋に誘発される H 波の振幅は嚙みしめ強さをした時に有意に増加し、さらに嚙みしめの強さを咬筋の筋電図活動を見ながら20% MVC (Maximum Voluntary Contraction:最大随意等尺性収縮)から 100% MVC まで段階的に増加させた場合、H 波の振幅は嚙みしめ強さにほぼ比例して増加することを報告している。さがに、手首の伸展、手掌の握りしめ、嚙みしめの3つの動作で、それぞれ H 波の振幅の変化を比較したところ、嚙みしめ時の振幅が最大だった。即ち、上肢の筋の収縮に比較して咀嚼筋の収縮は遠隔促通の効果が高いことを示唆する。
嚙みしめだけではなくガム咀嚼による咀嚼運動でも、開咬相、閉口相を問わず H 反射の促通が生じることが報告されている。しばしばメジャーリーガーが試合中にガムを嚙んでいる様子がみられ、ガム咀嚼による脳の活性化がパフォーマンスに良い影響を与える可能性が指摘されているが、ガム咀嚼は遠隔促通を介した筋力向上といった効果も運動の種類によっては期待できるかもしれない。
3. 遠隔促通は非相反性
これは、体中おあらゆる筋の組み合わせで生じる。従って、遠隔促通は筋力を増強させたい筋のみ選択的に生じるわけではない。例、橈側手根屈筋と橈側手根伸筋の両方の H 反射を促通させる。つまり同じ関節を挟んで伸筋と屈筋の両方を促通している。
また、嚙みしめがヒラメ筋と前脛骨筋非相反的な促通を引き起こすだけでなく、前脛骨筋からヒラメ筋への Ia 抑制(相反抑制)を減弱させることも報告。Ia 抑制とは、屈筋に伸張反射が生じた場合場合に関節が動いて屈筋が短縮できるように、脊髄内の抑制性介入ニューロンを介して伸筋を弛緩させるような仕組みだ。➡la 抑制(相反抑制、拮抗抑制)主動作筋が急速に伸ばされる事によって伸張反射が生じる時、脊髄内の抑制性介在ニューロンを介して拮抗筋の活動は抑制。これをla 抑制いい、主動作筋を短縮し易くするための仕組みである。
この様に屈筋と伸筋を同時に促通し、la 抑制を減弱させることから考えると、嚙みしめによる遠隔促通は、関節を固定した姿勢の維持や等尺性運動のような、すばやく関節を動かす必要のない運動では有利に働くものn、滑らかな動きやすばやい運動では有利に働くものの、滑らかな動きやすばやい運動を行う時には不利に働く可能性があると言える。
すなわち、遠隔促通は運動の性質によって有利に働く場合もあり、また、不利に働いてしまう可能性もある。
4.遠隔促通はどこで作れるのか?
遠隔促通が起こる機序については筋紡錘感覚の関与や運動ニューロンプールの膜電位の上昇など考えられている。
続く。
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