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2023年4月15日 (土)

Science 嚙みしめと運動の関係 ~遠隔促通の正しい理解~ ⑥

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2) 弓道における離れ動作の場合

 弓道は射法八節と呼ばれる決められた動作に従って弓を引き的を射る(実際に弓を引いて矢を放つ動作を「行射」という)競技である。ラグビーと比べ、一見すると静的な運動ではあるが、弓を引くために強い筋力を必要とする。また、狙いを定める時には体を静止させる必要がある一方、矢を発射「離れ」と呼ばれる動作では素早い動作が行なわれる。

 実験では行射の際、左右の咬筋、胸鎖乳突筋、僧帽筋、上腕三頭筋の筋電図活動、弓に貼付した歪ゲージの出力と高速カメラによる動画の同時記録を行った。筋電図は歪ゲージの出力を参考に離れの瞬間を決定し、離れの前後各 1 秒間について

 ●「離れ」直前の 1 秒間

 ●「離れ」直後からの 0.25 秒間

 ●「離れ」の 0.25 秒後から 1 秒後までの 3 区間に分けて平均振幅を計測する。

 また、動画から離れの瞬間からの 0.1 秒間で右手(馬手メテ: 馬の手綱を持つ手)および左手(弓手ユンデ:弓を持つ手)の親指の付け根部分が移動した距離を計測して、「離れ」時の手の運動速度を算出した。

 行射中に 30% MVC 以上の咬筋筋電図が 1 秒以上見られた場合を「嚙みしめあり」と判定したが、記録を行った 24名のうち嚙みしめをしていたのはわずか 2名であった。嚙みしめる選手は例外的なので、嚙みしめない五段以上の上位者の被験者 13 名での離れ前後各 1 秒間の記録を精査したところ、顔を左に向ける際に働く右側胸鎖乳突筋、弓を引く際に強い力を発生する僧帽筋と上腕三頭筋は強く活動している一方、咬筋の活動は左右共に 5 % MVC 前後であった。しかし、「離れ」の直後に一過性の活動は胸鎖乳突筋や、左側の上腕三頭筋にもみられた。この活動は矢を発射した後の弓の振動とタイミングが一致しており、弓を持つ左側上腕三頭筋で大きく見られることから、弓の振動に対応して生じたもの、あるいは残心で体を静止させるための活動と推察される。この咬筋の活動は意識的に行ったものではなく、また「離れ」動作の後に生じた活動であることなどを考えると、咬筋を遠隔筋とした遠隔促通の効果が上腕や体幹などに及んでいることはほとんどないものと推察される。遠隔促通による影響があるとすれば、むしろ咬筋の増加の前にすでに強く活動している僧帽筋や上腕三頭筋などの活動の影響を咬筋が受けていると考えられる。

 弓道では嚙みしめない選手がほとんどであるものの、あえて科にしめながら行射を行うよう指示をして記録を行ったところ、当然ながら解析を行った区間を通じて左右咬筋の活動量は有意に増加したが、咬筋以外の筋で変化はない。

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