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2023年8月 2日 (水)

Topics 抗菌薬が使えなくなる日 ④

続き: 

4. 医療費抑制策としての後発医薬品の功罪

 医療現場の抗菌薬適正使用と時を同じくして、別の波が医薬品に押し寄せていた。国民医療費の上昇問題である。国は医療費の抑制策として速効性があり、かつ医療団体との摩擦の少ない後発医薬品の処方 1 調剤あたり診療報酬2点が加算された。

 しかし当初後発医薬品は先発品の後にゾロゾロ出てくることから「ゾロ」と呼ばれ、「ジェネリック医薬品は効かない」、「不純物で発熱する」等と医療現場では受け入れに否定的であった。しかし 2003年に包括払い制度(DPC) が始まり、その後 DPC 後発医薬品指数が導入されるなど、経営上の外堀が埋められた。また後発医薬品を使用する場合に医師の署名が必要だったのを逆転させ、後発医薬品を使用しない場合に署名を求めるなど、現場に対しての圧力も加わった。今や多くの医療機関でジェネリック比率は約 8 割に達する。

 問題は医療費抑制策における後発医薬品への過度の依存で、診療報酬改定の度に薬価が下がり続けた。ジェネリックメーカーは、原料・原薬の海外調達を行うことで利益を確保してきたが、一部の医薬品で採算が取れないラインまで薬価が低下してしまったのである。

 初めに述べたセファゾリン (1g) を例に挙げると、上市時に 3000 円超であったが、2016年には 107円まで低下した。キードラッグの薬価としては有り得ない金額である。

 抗菌薬の大半を占めるβラクタム系薬(ペニシリン系、セファロスポリン系、カルバペネム系)の原料は、現在は中国東北部で主に生産されている。国内工場は2000年代に閉鎖されて久しい。世界中の抗菌薬原料を独占的に生産するようになった中国では、もはや安く売る必要がなくなり、価格上昇に転じている。その結果、現在の薬価では採算が取れなくなるという事態に陥った。

 そのょうな中起きたのが、2019年のセファゾリン供給停止である。全国シェアの 6, 7 割を占めるジェネリックメーカーが供給を止めたため、手術の予防抗菌薬や菌血症の治療に大きな影響を及ぼした。

 供給停止の原因は、中国当局が環境規制を理由に原料の製造・出荷を停止したこと、原薬メーカー(イタリア)での異物混入が判明したこと、が主な理由であった。その後も同年のタゾバクタム/ピペラシリン、2022年のイミペネム/シラスタチン、メロペネムなど、感染症治療の切り札である広域薬が次々と供給停止、もしくは出荷停止、もしくは出荷調整となった。

 さらに採算が取れないという理由などで、2022 年にはミノサイクリンやアジスロマイシンの販売中止を発表するジェネリックメーカーも出てきた。海外の生産現場の事情で、もしくは採算の面で、抗菌薬の供給は簡単に止まることを我々は知った。

 もはや抗菌薬は当たり前に使用できる薬剤ではなくなりつつある。

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