Topics 抗菌薬が使えなくなる日 ⑥
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6. 新薬開発の停滞
薬剤耐性菌の問題は、MRSA 以降もつ図射ている。多剤耐性緑膿菌は 2000 年代半ばに全国の医療機関で院内感染の原因菌となった。多剤耐性アシネトバクターは、乾燥した院内環境でも長期間生息して、アウトブレイクの収束に時間を要した。2010年以降に登場した基質拡張型βラクタマーゼ(ESBL)
s酸性菌は、それまでの薬剤耐性菌と異なり、市中で拡がって院内に持ち込まれる。ESBL 産生菌がメタロβラクタマーゼを産生する能力を併せ持つと、カルバペネム耐性腸内細菌目細菌となり、有効な抗菌薬がほとんどない高度耐性菌となる。
しかし現在、新規抗菌薬の開発は停滞している。かって抗菌薬を開発していた企業の多くが感染症領域から撤退した。新たな薬剤耐性菌が出現しているにもかかわらず、今後も新薬はあまり期待できない。治験に時間とコストを要し、上市後の採算が期待できなければ撤退もやむを得ない。しかも抗がん剤と異なり、抗菌薬では上市後一定期間経過すると出来高が認められない。
米国では、2011年に、GAIN 法 (The Generating Antibiotic Incentives Now Act) という法律を施行した。薬剤耐性菌に対する抗菌薬の開発を国を挙げて促進するために、市場独占期間の延長、迅速審査・承認など企業の取り込みを支援した。
英国やスウェーデンでは上市された新薬を国が定期定額購買するなど、開発する企業へのインセンティブを強化している。
我が国でも 2021年に厚労省が「医薬品産業ビジョン」を発表した。「医薬品の中でもワクチン・感染症治療薬は採算性が低い。国による買い上げ制度・諸外国において導入が予定されているプル型インセンティブの導入などを検討する」と述べている。
プル型インセンティブとうあ、上市後の利益を確保するための支援策である。新薬の開発には開発期間の短縮とコスト削減のためのプッシュ型インセンティブとの両輪が新薬開発支援に欠かせない。今後の政府の取り組みが期待される。
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