Science 歯科医療の未来を切り拓くエピジェネティクス ③
続き:
2. エピジェネティクスの分子メカニズム
エピジェネティクスな遺伝子発現調節で見られる化学修飾には DNA メチル化、並びにヒストンの翻訳後修飾がある。ここでは DNA メチル化と、ヒストン修飾で最も研究が進んでいるヒストンアセチル化に焦点を置き解説していく。なお、他のエピジェネティクスとして miRNA がよく知られているが、miRNA については他を参考にしてほしい。
1) DNA メチル化
DNA メチル化は細菌からヒトまで保存されている DNA の化学修飾である。A、T、G、C、すべての DNA がメチル化されるのではなく、真核生物ではシトシン―グアニン(CpG)の二塩基配列の C にメチル基を転位させ、メチル化した 5―メチルシトシンに変換する。DNA をメチル化する DNA メチル化酵素(DNA methyltransferrase:DNMT) は、すぐ後ろに G がある C しかメチル化しない。
そしてプロモーターと呼ばれる遺伝子の制御領域には CG が密集した領域(CpG アイランド)が存在し、この領域の DNA がメチル化されると転写のスイッチがオフになり遺伝子が働かなくなる。ヒトでは、CG 配列の約 70%がメチル化されていると言われている。
DNA メチル化が転写を抑制し遺伝子の働きをオフにするメカニズムとして 2 つの機序がかんがえられている。一つは DNA がメチル化されると、RNA ポリメラーゼが DNA を読み取ることができないことができないため転写が抑制される機序である。
もう一つは、DNA メチル化を読み取る特殊なタンパク質が、メチル化 DNA に結合し蓋をしているため、RNA ポリメラーゼや転写因子が DNA に結合することを間接的に阻害する機序である。
2) ヒストンのアセチル化
ヒストンのアセチル化は DNA とヒストンの関係を変化させ、DNA を開いた状態にすることで遺伝子の働きをオンにする。通常、ヒストンはリジンやアルギニンなどのプラスに荷電した アミノ酸を多く含んでいるため、マイナスに荷電した DNA は、プラスに荷電したヒストンに強固に巻き付いている。
しかし、ヒストンのリジン残基がアセチル化されるとプラス電荷が中和されるため、DNA とヒストンの相互作用が弱くなり DNA が緩むことになる。ヒストンのアセチル化は可逆的であり、ヒストンをアセチル化する酵素をヒストンアセチル化酵素、ヒストンからアセチル基を取り除く酵素をヒストン脱アセチル化酵素と呼ぶ。
最近では、ヒストン脱アセチル化酵素の働きを阻害する薬剤の開発と歯髄再生への応用も進められている。
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