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2023年9月 7日 (木)

Science 歯科医療の未来を切り拓くエピジェネティクス 

続き:

5.   骨形成におけるエピジェネティクス研究

 ここまで、エピジェネティクスの分子基盤と分子基盤について説明してきた。ここからは歯科治療において重要な研究課題の骨形成について、我々が行っているエピジェネティクス研究の一部を紹介する。

1) 骨形成と DNA メチル化

 歯周病の歯槽骨再生や歯科矯正治療における牽引側の歯槽骨形成において重要な役割を担うのが骨芽細胞である。従って、骨芽細胞において  DNA メチル化によって制御される遺伝子の解明は、骨形成の新たな分子メカニズムを明らかにするうえで重要となる。

 そこで我々は、骨芽細胞および皮膚線維芽細胞から全ゲノムを抽出し、シトシン(C)の DNA メチル化状態を解析することが可能な RRBS  (Reduced representation of bisulfite sequencing) 用いて、骨芽細胞および皮膚線維芽細胞の DNA メチル化を検討した。その結果、骨芽細胞においてプロモーター領域の DNA メチル化が減少する遺伝子として 508個の遺伝子を同定した。さらに骨芽細胞および皮膚線維芽細胞から RNA を採取し、 RNA-seq による遺伝子発現の網羅的解析を結果骨芽細胞で発現が上昇する遺伝子として 1702 個の遺伝子を同定。そして、これらの解析を統合した結果、骨芽細胞では 45個の遺伝子群が DNA メチル化の低下により遺伝子発現が増加していることを見い出した。前述した通り、遺伝子発現にはヒストン修飾も深く関与していることから、45 個以外の遺伝子はDNA メチル化以外の何らかの分子機構によって制御されていると推察できる。これら45 個の遺伝子には、これまで骨形成への関与が報告されていない遺伝子も含まれており、さらに詳細な解析により新奇の骨形成メカニズムが明らかになると期待できる。

2) 骨形成を促進する DNA メチル化阻害剤の検討

 DNA メチル化は遺伝子発現の働きをオフに制御することから、薬剤を用いて DNA メチル化酵素を阻害することかで骨芽細胞に重要な遺伝子の転写をオンすると、さらに骨形成を促進することが可能になると推察される。そこで、 BMP2刺激により骨形成に重要な遺伝子の発現が増加する骨芽細胞様細胞株 MC3T3-E1細胞を用いて、DNA メチル化阻害剤 RG108 の効果を検討した。その結果、 RG108 は、BMP2 により誘導されるオステオカルシン遺伝子ならびに Run2 遺伝子の発現を約 2 倍に増強させることが、RT-qPCR法により明らかになった。

 以上より結果は、RG-108は骨芽細胞遺伝子を脱メチル化することで遺伝子発現を促進することが可能であることを示唆しており、骨形成促進剤としての応用が期待できる。

 

 

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