« Science 歯科医療の未来を切り拓くエピジェネティクス ⑤ | トップページ | Science 歯科医療の未来を切り拓くエピジェネティクス  »

2023年9月 6日 (水)

Science 歯科医療の未来を切り拓くエピジェネティク ⑥

続き:

4. エピジェネティクスと歯周炎

 では、歯科領域におけるエピジェネティクスにはどのようなものがあるのだろうか。舌がんや歯肉がんについてはエピジェネティクスの関与が多数報告されているが、ここでは歯周炎に関するエピジェネティクス研究をいくつか紹介する。

 ピロリ菌や HIV ウィルスが DNA メチル化の異常を引き起こすことが知られているが、歯周病菌についてもエピジェネティクスの変化を誘導することが報告されている。例えば、P. gingivalis や F , nucleatum は歯肉上皮 細胞における DNA メチル化酵素やヒストン脱化酵素を低下させることが報告されている。DNA メチル化やヒストン脱アセチル化の抑制は遺伝子発現をオンに作用することから、何らかの遺伝子の働きが増強している推測される。

 前記の研究結果は、ゲノム全体としてDNA のメチル化が低下していることを示しているが、個々の遺伝子を詳細に検討すると細菌感染によって DNA メチル化が亢進する遺伝子っも存在する。そな中でも、炎症に関わる遺伝子の DNA メチル化に関してはいくつか報告が見られる。例えば、自然免疫に関与する TLR2 遺伝子のプロモーター領域は歯周病患者の上皮で高度にメチル化されており、また P. gingivalis は歯肉上皮細胞において TLR2 遺伝子のプロモーター領域の DNA メチル化を亢進する。

 一方で、IL-6 などの炎症性サイトカインについては DNA メチル化を変化させないとという報告もあり、歯周炎におけるエピジェネティクスの関与は限定的であるとも推察される。歯周炎におけるエピジェネティクスの変化は、炎症を惹起する炎症系細胞、バリアとなる歯肉上皮細胞、さらには再生に重要な骨芽細胞など、細胞種においても多様な様式を示すと考えられ、今後さらなる検討が必要である。

« Science 歯科医療の未来を切り拓くエピジェネティクス ⑤ | トップページ | Science 歯科医療の未来を切り拓くエピジェネティクス  »

日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事