Science 歯科医療の未来を切り拓くエピジェネティクス ④
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3. エピジェネティクスと生命現象
エピジェネティクスによって引き起こされた遺伝子の働きの変化は様々な疾患の原因となる。また、個々の細胞で特定の遺伝子だけを働かせるエピジェネティクスは、一つの受精卵から発生し同じゲノムを有するにもかかわらず、全く異なる形態や機能を発揮する細胞の多様性を決定するうえで需要な分子基盤となる。ここからはエピジェネティクスが関与する生命現象について紹介していく。
1) DNA メチル化とがん
がんの主原因は遺伝子変異の蓄積、すなわちジェネティクスの変化だ。一方、近年になってがんにおけるエピジェネティクスの関与が明らかになり、エピジェネティクスを標的としたがん治療薬が開発・応用されている。ここでは DNA メチル化を例にエピジェネティクスとがんについて。
がん細胞の特性の一つが無限の細胞増殖である。正常な細胞には細胞が増えるのを促進するアクセル役の遺伝子と増殖を抑制するブレーキ役の遺伝子が存在。このブレーキ役の遺伝子はがん抑制遺伝子と呼ばれている。正常な細胞ではアクセルとブレーキが正常に機能することで異常な細胞増殖を抑えている。一方、細胞増殖のアクセル役である「がん遺伝子」が活性化したり、逆に「がん抑制遺伝子」が正常に働かないと、細胞が増殖し続けるがんになる。
この「がん抑制遺伝子」の働きが阻害される分子メカニズムは 2 通り考えられる。一つは、塩基配列の変化による抑制、すなわちジェネティクスな要因である。がん抑制遺伝子の変異は異常なタンパク質を合成することとなり、その結果がん抑制遺伝子としての機能が発揮されない。もう一つは、 DNA メチル化の亢進により、DNA 塩基配列は政情であるが、がん抑制遺伝の発現がオフになる場合である。 DNA メチル化の亢進によりがん抑制遺伝子のタンパク質が発現しない、または減少するため、細胞増殖が止まらなくなる。実際のがんでは、遺伝子変異と DNA メチル化の両方が原因となって、がん抑制遺伝子が阻害されていることがほとんどである。特筆すべきことに、がん抑制遺伝子の DNA メチル化を薬剤によって阻害することで、がん抑制遺伝子の発現を促進する治療法が開発されている。
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