Science 糖尿病と歯周病 ~基礎研究からその問題点を考える~ ⑤
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3. 糖尿病において歯周炎が合併することの真の問題は、糖尿病性血管障害の促進である。
歯周病が動脈硬化性疾患の発症・進展を促進するか否か、多くの基礎研究、臨床研究、疫学研究がなされてきた。それらの研究は、歯周病による動脈硬化性疾患の発症・進展を支持している。一方で、歯周病治療により動脈硬化性疾患の発症が改善したという大規模臨床試験結果がないことから、米国心臓協会は、歯周病が動脈硬化性疾患を発症・進展すると結論づけるのは時期尚早である、という立場。
糖尿病において、歯周病が糖尿病合併症の発症・進展に関与することを示唆する疫学研究も報告されている。2 型糖尿病を多く発症するピマインディアンを対象としたコホート研究において、非歯周病の糖尿病患者と比較して、重度歯周炎を有する糖尿病患者では、虚血性心疾患や糖尿病性腎症に罹患する割合、脂肪率が有意に高いことが報告された。また台湾における国民健康保険利用者のデータベースお利用した後ろ向きコホート研究では、2 型糖尿病と歯周病の診断を受けた患者を、歯肉縁下デブライドメントとフラップ手術を含んだAdvanced periodontal treatment 群と、それ以外の非外科的歯周治療を行った Non-advanced periodontal treatment 群に分け、循環器疾患(cardio vascular disease:CVD)への発症リスクに歯周治療が独立して及ぼす影響を、Cox 比例ハザードオデルを適用して評価した。その結果、脳卒中発症率に差がなかったものの、心筋梗塞と心不全発症率はAdvanced periodontal treatment により減少していた。
糖尿病は、合併症として細い血管(細小血管)から大い血管まで血管が悪くなる疾患である。糖尿病治療の目標は、糖尿病のない人と変わらない寿命と
QOLを確保することであり、そのためには糖尿病合併症(網膜症、腎症、神経障害)および動脈硬化性疾患(虚血性心疾患、脳血管障害、末梢動脈疾患)の発症、進展を阻止することが重要である。 その 1。
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