日記・コラム・つぶやき

2019年10月13日 (日)

原発の本当のコスト ③

続き:

 

■既存の原発のコストを試算する

 

 では、現時点で、既存の原発はどの程度の原発コストになったと評価するのか。ここでは、コストWG.が提示した方法に基づき、既存原発の発電コストを計算してみることにする。――留意すべきは、コスト検証WG.の方法に基づく以上、「平準化発電コスト」を評価するものであるということである。それゆえ建設する時点での評価であること、また、建設費については当時の金額をそのまま用いていることに留意されたい。その上で、本稿では、以下の独自の考え方を使って、電力各社の現実にできだけ即した形で原発コストを計算することにした。

 ①追加的安全対策費のアップデート

 追加的安全対策費は、電力各社発表または報道に基づき、最新のものを用いる。これによって、新規制基準に適合するために必要となっている費用を考慮する。但し、これらの発表された数値は、具体的にどの原発に要した費用なのか明確にされていない。そこで便宜的に、電力各社が原子力規制委員会に対して適合性審査を申請した原発において安全対策を講じるための費用であるとした。原発会社によっては、複数の原子炉の適合性審査申請をしていることがある。その場合は基数で除し、平均をとる。

 今後も、追加的安全費用は増加することが見込まれる。というのは、テロ対策等のための「特定重大事故等対処施設」(以下、特重施設)が完成しない場合、原発の運転停止を命じる方針を、2019年4月に原子力規制委員会が示したからである。元来、新規制基準において必須とされた特重施設の設置が5年間猶予され、さらに2015年には猶予の起点を本体施設工事認可時へと変更されていた。

 事実上二回も特別措置を設けること自体大問題であり当時も批判が多かった。今回の決定では猶予期間の再延長をしないことが明らかになった。再稼働をしようとすれば、電力各社は数百億円規模とみられ、これも安全対策費用を引き上げる。また、特重施設の完成が間に合わず停止しなければならない原発も多いと考えられている。そうすれば次に述べるように、発電コストが上昇する。

 ②停止期間の考慮

 コスト検証WG,の計算では、モデルプラントの運転期間を40年としていた。現実には、福島原発事故後 、長期間にわたって原発が停止することになった。日本全国で9基の原発(大阪3、4号機、高浜3、4号機、伊方3号機、玄海3、4号機、川内1、2号機)が再稼働したものの、再稼働した原発も数年の停止期間がある上に、他の原発は停止したままである。通常の定期検査であれば政府の計算でも考慮されているが、この間の停止期間は、通常の定期検査ではなく、また、無視できない長さになっている。さらに訴訟の影響で停止した伊方3号機のようなものもある。これについても考慮する必要がある。

 (注)この事は、日本経団連が2019年4月に発表した「日本を支える電力システムを再構築する――Society 5.0実現に向けた電力政策」で、運転できなかった期間を、運転期間40年から控除し、その分運転できる期間を延長するよう要求していることからもわかる。もちろんこのような要求に原子力規制委員会は屈してはならない。

 そこで、本稿では、既存原発の停止期間を考慮し、発電量をその分減じることにする。また、原発の運転開始から数えて何年目で停止したのか、その時期もまた平準化発電コストに大きく影響することから、各発電所の停止時期についても考慮する。これによって日本の原発が、これまで十分な安全対策をとたなかったゆえに停止せざるを得なくなっている現実を費用面で評価することが可能。

 一般に、運転期間が40年より短ければ総発電量が少なくなるから、KW時あたり発電コストは上昇するのだ。

 ③再稼働時期の想定

 2019年5月現在、既存原発は28基(建設進捗率93.6%の島根3号機を含めれば29基)にすぎず、数でみるとピークの半分近くになった。このうち9基は再稼働にいたっていない。これらの原発のうち、再稼働する原発が何基になるかははっきりしない。そこで、本稿では、平準化発電コストの計算値を保守的に見積もる(つまり原子力発電を有利に計算する)ために、適合性審査を行なっていない発電所も含め、2020年に再稼働するものと想定する。

 ④燃料費の想定

 コスト検証WG.の計算では、燃料費(核燃料サイクル費用含む)は1.5円/KW時となっている。だが、電力各社の有価証券報告書をみると、実態としては、1.5円/KW時より安価であるようである。そこで本稿では、福島原発事故以前の10年間(2001~10年度)の平均値を電力各社別に用いることにした。燃料費は発電所ごとに公開されていないため、当該電力会社では同じ燃料費とした。これによって、電力会社間の違いを把握できるだろう。

2019年10月12日 (土)

原発の本当のコスト ②

続き:

 

■ WG.のコスト検証の問題点と限界

 

 コスト検証WG.による報告には問題もある。最大の問題は、「モデルプラント」の想定そのものである。「2014年モデルプラント」」の想定は次のようなものであった。

 8

  建設費=福島原発事故以前に建設された直近四基の原発の平均値37万円/KW

  追加的安全対策費=福島原発事故以後に講じられた安全対策費用の平均値 一基あたり601億円

 

 つまり、福島原発事故以前に建設された原発と同じ原発を、2014年に建設し、追加的に安全対策を講じると想定している。しかしながら、福島原発事故以前のタイプの原発を建設し、追加的に安全対策を講じるというのが、はたして現実的と言えるのだろうか。むしろ、設計段階から根本的に安全性を高めた原発を建設すると考えるほうが自然ではないか(注)。 (注)コスト検証では、2020年、2030年時点での発電コストも計算された。他の電源は、建設費用や燃料費用等の想定で変更が加えられている

    が、原子力は基本的に「2014年モデルプラント」のままである。――2020、2030年においても「2014年モデルプラント」のような原発

    を建設することが想定されている。

 原子力発電に対する安全規制は、強められることはあっても弱められることはない。特に、福島原発事故以降、安全規制は世界的に強化されている。その代償として建設コストは上昇する。原子力発電においては、安全性と経済性とはトレードオフ(二律背反)の関係にあり、安全性が高まれば、経済性は悪くなる。事実、欧米では、原子力規制が強まった結果、建設費用が2~3倍に上昇。例えば、イギリスに建設予定のヒンクリー・ポイント原発についての欧州委員会の2014年の資料をみると、出力330万kwに対し、建設費用は245億ポンドとされている。単純に当てはめれば、建設費単価は2014年当時で7424ポンド/kw、当時の為替レート(1ポンド=170円程度)で126万円/kwである。これは、日本の「2014モデルプラント」の3.4倍に相当。この高コストのために、イギリスでは差額決済取引(CfD:Contract for Difference)が導入、電力市場価格と発電コストの差額を政府が保証した。

 原発の建設コストが上昇していることは、2019年初めに、日立製作所が、イギリスのウェールズ州で計画していたウィルヴァ原発の建設を凍結(事実上の撤退)する原因にも。このプロジェクトは、日本の原発輸出路線の中核の一つであり、日本政府も後押ししていた。しかし原発を建設するための費用は3兆円に上がり、イギリス政府が過半の出資ができないため折り合いがつかず凍結にいたった。日立製作所が同プロジェクトを再開する条件は国有化であるという(『日本経済新聞』2019/01/24)。原発の建設コストが上昇している事例は、フランスのフラマンヴィル原発3号機、フィンランドのオルキルオト原発3号機や、東芝の原発事業崩壊につながったアメリカのボーグル原発など、枚挙にいとまがない。

 コスト検証WG.の計算では、安全性の高い原発を想定していないので建設費の高騰という点が考慮されていない。WG.の議事録を精査しても、この点について深く検討していた形跡が無い。福島原発事故事故直後の混乱期ならともかく2015年時点であれば当然精査すべきであったし、遅くとも2018年のエネルギー基本計画策定時には、原発のコストの再計算を行なわなければならなかった。藪蛇になることを恐れた政府が、あえてコスト計算を行なわなかったのではないかとすら思われる。

 次に、当時の状況からすれば新たに考慮すべき点がある。それは、2015年の検証以降、追加的安全対策が進んだことである。多くの電力会社が、再稼働のために新規制基準への適合性審査を申請している。審査に合格するために、電力各社は巨額の追加的安全投資を行なっている。この費用は公式には発表されていないが、新聞各社の報道や社長記者会見等からおおよそその追加的安全投資額を知ることができる。

 電力各社から発表される数値や、『日本経済新聞』『朝日新聞』等で報道された数値を合計すると、安全対策工事費は全国で4兆6000億円ほどになっている。適合性審査の申請を行なった原発は25基であるから、1基あたり2000億円弱である。これもまた資本費の増大をもたらす。「2014モデルプラント」には、この現実が反映されていないのだ。

2019年10月11日 (金)

原発の本当のコスト ①

「世界 7」より、筆者 大島堅一(龍谷大学政策学部教授)さんは述べている。コピーペー:

 

■原子力発電の経済性評価をめぐって

 

 原子力発電は、長い間、他電源に比して安く、経済的であるとされてきた。このとき、一体何をもって安いとするかは、政策形成の際に深く論じられてこなかった。福島原発事故以前に原子力発電の経済性について検討されたのは、2004年の総合資源エネルギー調査会の電気事業分科会コスト等検討小委員会が最後であった。総合資源エネルギー調査会は、エネルギー政策の具体的政策を検討する政府の審議会であるが、このとき計算した主体は電機連合会(以下、電事連)で、検討小委員会は、計算結果をオーソライズしたにすぎなかった。

 2004年の計算では原子力発電のKW時当たりの発電コストは5.3円とされた。この数値を根拠に、水力、LNG、石炭、石油といった既存電源に比べて安いということが強調されるようになる。電事連が計算を行なっているのにもかかわらず、いったん政府の審議会を経由したことで、政府のお墨付きをもらった電事連は、自らの計算結果を政府の審議会のものとして大いに宣伝した。

 このときの発電コストは、それを得るために用いた計算式や想定、データの重要な部分が非公開であった。2004年以前ではあったが、ある新聞記者が情報公開制度に基づき原子力発電のコスト計算の根拠資料を入手したことがある。筆者(大島)は、請われて、その資料を検討した。当該資料は具体的数値の部分が黒塗りになっていたり、数ページにわたって黒色で塗りつぶされていたりしており、詳しい検討ができるものではなかった。かような状況であったから、原子力発電に関する経済性について政府や事業者が述べるときには十分な注意が必要である。

 

■エネルギー政策における原子力発電の経済性評価

 

 日本のエネルギー政策の中長期的な方向性は、エネルギー政策基本法に基づき数年おきに策定される「エネルギー基本計画」で示される。最新の第五次エネルギー計画は2018年に作られた。同計画では、福島原発事故後、安全性を第一にするとはされたものの、原子力が低廉で、二酸化炭素を排出しないため環境適合的で、安定して電気を供給するエネルギー源であると位置づけられている。特に、低廉であるという説は、本当かどうかはともかくとして1950年代からつづく言説の一つであり原子力発電推進の強力な根拠となってきた。

 2018年のエネルギー基本計画の「運転コストが低廉」という記述の根拠は、2015年に、総合資源エネルギー調査会の長期需要見通しを小委員会発電コスト検証WG.が出した報告書である。この報告では、原子力発電の発電コストは、「2014モデルプラント」で10.1円/KW時以上とされた。ここでは原子力のみ「以上」とされている。これは、原発事故費用が今後も増大することが見込まれるため、最低限の値しか示しえないからである。本稿では「以上」とすべきところ、これを省略して述べる。

 「2014年モデルプラント」とは、2014年時点で新規に建設する場合のコスト計算のためのモデルである。これが40年間、一定の設備利用率で運転したときに、KW時あたりどの程度の費用がかかるのか、をあらわす値が「発電コスト」として発表された。このように一定期間(この場合40年間)に一定の設備利用率で運転した場合に見込まれるKW時あたりのコストを「平準化発電コスト」(LCOE: Levelized Cost of Electricity)といい、国際的にも広く使われる指標となっている。

 コスト検証WG.の「平準化発電コスト」の特徴は、原発事故の費用が考えられていること。また、技術開発や立地自治体への交付金等の政策経費も原子力発電の費用として捉えられていることにある。これらは、日本が、福島原発事故を引き起こしたゆえに評価されるようになった項目だ。

 また、2011年の福島原発事故後に設置されたコスト等検証委員会以来、計算方法、根拠は広く公開されうようになり、一般にも利用することが可能になっている。計算過程をトレースできるエクセルファイルもダウンロード可能なかたちで公開されている。これらの点で、日本のコスト計算には先進的な面も含まれる。エクセルファイルと報告書を読み込めば、多少煩雑であっても計算過程を精査できる。

 

 

2019年10月10日 (木)

Science ~材料科学の立場から考える~ ⑨

続き:

 

まとめ

 

 ① ジルコニアはその優れた機械的強さから臼歯部補綴材料として十分に使用できる。

 ② 従来型ジルコニアは、薄いコーピング(フレーム)の製作を可能にするが、前装セラミックスのチッピングの有無が従来型ジルコニア冠

    の臨床経過を左右する。

 ③ 高透光性ジルコニアによるフルジルコニア冠は、高透光性になるほど、審美性は増すが強度は減少する。高透光性ジルコニア冠の臼歯部

    適用は、十分な冠の厚みを確保する必要がある。

 ④ 2ケイ酸リチウム系ガラスセラミックス優れた審美性を有するが、強さが小さいため臼歯部への適用には注意が必要である。

 ⑤ セラミック冠では確実な接着表面処理とレジンセメントを使用して接着し、セラミック冠と支台歯を一体化してセラミックの破壊のリス

    クを軽減することが望ましい。

 ⑥ CAD/CAMレジン冠は冠の厚みがあれば臼歯部咬合に耐えるが、冠脱離が発生することがある。耐摩耗性などを含めて今後の長期臨床観

    察が求められる。

 ⑦ セラミックス材料、CAD/CAMレジン材料ともに、さらに信頼性と審美性のある臼歯部補綴用材料とするためには、症例選択と支台歯形

   成法の標準化に加えて材料開発、CAD/CAM、接着などの技術発展が期待される。

  

2019年10月 9日 (水)

Science ~材料科学の立場から考える~ ⑧

続き:   <その 3>

 この変形量の違いを補償するのは、介在するセメントの強さと接着力にある。セメントの機械的強さと接着力が十分に大きければ、変形量に差が生じても接着部の破壊、つまり冠脱離を防ぐことが可能である。接着操作の適否が重要であるとともに、支台歯材料の適切な選択が必要であろう。

 CAD/CAMレジン冠の脱離や不具合が装着後の比較的早い時期に発生したことが報告されている。機械などの故障・不具合発生に関する一般的特性としてバスタブ曲線が知られている。機械などは初期に不具合や故障が発生することがあり、時間経過とともに故障発生はなくなる。さらに時間が経つと寿命劣化により故障発生が増加する。この初期故障は、先天的な欠陥、製造上の不備、製品管理の悪さなどが原因といわれる。

 レジン冠脱離が初期に発生することが多いことは、レジン冠の材料自体に問題はないと考えられることから、術者の症例選択技術的な原因が大きく影響していると類推できる。したがって、症例に応じたレジン冠の適用判断とコアや接着材などの材料選択、接着術式を誤らなければ、装着初期の不具合を防ぐことができると考えられる。

 臼歯部へのCAD/CAMレジン冠の適用についてはさらに長期間の経過観察が必要。特にレジン系材料の欠点である耐摩耗性や吸水に伴う変色・物性劣化などの評価が求められる。 次は <まとめ> へ

2019年10月 8日 (火)

Science ~材料科学の立場から考える~ ⑦

続き:     <その 2>。

 疋田らは良くコントロールされた症例の24か月までのCAD/CAMレジン冠の臨床経過を報告している。それによるとCAD/CAMレジン冠の破壊は214症例中1症例のみであり、冠脱離が10症例(4.7%)。上記の研究室での実験結果からの推測どおり、レジン冠材料は口腔内で機能するのに十分な機械的性質を有することがわかる。同様に末瀬らは、2年で平均8%の冠脱離が発生したと報告している。いずれにしても、CAD/CAMレジン冠の問題は口腔内での破折ではなく、冠脱離であり2年以内の発生割合は10%未満である。

 疋田らは、冠脱離はメタルコア装着支台歯がレジンコア支台歯よりも多いと述べている。また、冠脱離の多くは装着後1~3か月に発生。冠脱離に関しては、レジン冠材料自体の問題ではなく、支台歯形成や接着操作による影響が大きい。特に離脱したレジン冠内面にセメントが付着していうことが見られたことから、レジン冠内面よりも支台歯表面との接着の優劣が冠脱離に影響を与えていることが推定できる。

 仮着材除去や表面の清掃、確実なプライマー処理などの接着操作が重要であり、歯科医師の技量が大きく左右する。

 メタコア装着支台歯での冠脱離が多く認められたことは、材料学的には材料の弾性係数は材料の不一致も原因と考えることもある。弾性係数は材料に荷重をかけた時にどの程度変形するかの目安になる数値。弾性係数の異なる材料に同じ荷重を負荷した時に、弾性係数の大きい材料は小さい材料よりも変形量が少ないことを意味する。

 支台歯材料として、象牙質、コポジットレジン(レジンコアならびにCAD/CAM冠に相当)、金銀パラジウム合金(メタルコアに相当)、ジルコニアに対して小臼歯部ならびに大臼歯部の平均咬合力を負荷させた時に、これらの材料がどの程度変形するかを弾性係数から推定したものである。小臼歯・大臼歯部ともにコンポジットレジンと象牙質の推定変形量は近似しているが、コンポジットレジンと金銀パラジウム合金の推定変形量は、コンポジットレジンは金属の約6倍となっている。こお違いが、メタルコアにおいてレジン冠の脱離が多く見られたことの原因の一つと考えられる。<その 3>へ

       

2019年10月 7日 (月)

Science ~材料科学の立場から考える~ ⑥

続き:

 

5. CAD/CAM 用コンポジットレジンの特徴と臨床経過

 

 2014年の歯科診療報酬改定により、CAD/CAM により製作されたコンポジットレジン冠が小臼歯部の健康保険適用となってからCAD/CAMレジン冠の使用が普及しはじめた。さらに、2016年には条件付きではあるがCAD/CAMレジン冠の大臼歯への健康保険適用となったことから、今後はCAD/CAMレジン冠はさらに普及すると予想される。国内を中心として多数のCAD/CAMレジン冠用材料が市場に出回ってきている。

 CAD/CAMレジン冠材料の物性については日本歯科材料工業協同組合規格によって要求項目が定められ、市販製品は物性値に差があるものの、すべてこの要求基準を満たしている。この材料は、マトリックスレジンとフィラーをあらかじめ高温高圧下で重合させることにより、重合率が高くかつフィラー含有量も増加させたものである。

 その結果、高強度で安定した材料となっている。コンポジットレジンとしては優れた機械的性質を示すが、臼歯部審美材料としてみると当然ながらジルコニアやガラスセラミックス系材料よりも劣っている。

 フィラー含有量は重量の60~80%と言われる。しかしながら80重量%フィラーのコンポジットレジンであっても、フィラー密度(2.6~4.2g/㎤)とマトリックスレジン密度(1.1~1.2g/㎤)からフィラーの体積比率を計算すると53~63%程度。つまり、レジンブロックの体積の半分ないし半分弱は機械的強さの小さいレジン成分から構成されていると考えてよい。この構造的な特徴が、セラミックスよりも強さ、硬さ、弾性係数が小さく、吸水性が大きいことの原因の一つ。

 臼歯部審美材料としては機械的強度が小さいが、矢谷らは、各種CAD/CAMレジンで大臼歯冠を製作して、咬合面に垂直に荷重を負荷してCAD/CAM冠の破裂強度を測定して耐久性を報告。冠破裂強度は水中浸漬前では1900~3200N(約190~320kgf)であり浸漬30日後は900~2500N(約90~250kgf)となった。

 水中浸漬によって強度劣化が大きく認められる材料もあう。天然歯の大臼歯部の平均咬合力は565Nと報告されている。CAD/CAMレジン冠材料は水中浸漬によって強度劣化傾向がみとめられるか、平均的な咬合力に対してレジン冠が十分な厚みを有していれば臨床的には口腔内で破壊されることのない強度を持っている。口腔内で5年経過を想定した条件での実験でも強度に大きな減少は見られなかったと報告されていることから、CAD/CAMレジン冠材料自体は十分な厚みが確保できるならば臨床適用に大きな問題はないと推測される。   <その1>

2019年10月 6日 (日)

Science ~材料科学の立場から考える~ ⑤

続き:

 

4. セラミック冠の臨床経過

 

 オールセラミック冠と陶材焼付金属冠の臨床経過について5年間生存率に関して多数文献をまとめた報告がある。それによると、5年間生存率(口腔内で機能し続けている割合)の平均は陶材焼付金属冠が94.7%、オールセラミック冠が種類によって異なるが平均90.7~96.6%である。2ケイ酸リチウム系ガラスセラミック冠は96.6%と最高の生存率を示している。ジルコニア冠(高密度焼結ジルコニア冠)の平均は91.2%(95%信頼区間範囲82.8~95.6%)である。

 ジルコニア冠については、報告によって94%の生存率を示すが、べニアセラミックスのチッピングの発生の見られない症例の平均は86.1%(95%信頼区間範囲75~96%)とするものもある。これらの臨床経過報告は前歯部と臼歯部を合わせた報告である。特に2ケイ酸リチウム系ガラスセラミック冠の中で最高生存率を示したのは、この材料が主として前歯部に使用されていることに起因している。

 9年後の臨床経過は、前歯部では100%生存率を示し、それに対して臼歯部では94%と減少したと報告されている。臼歯部では生存率が減少するものの94%であったことは、ガラスセラミックが臼歯部においても機能できることを示している。

 統計学的にジルコニア冠と陶材焼付金属冠の生存率は有意差がないと報告され、いずれもメタルコーピングやジルコニアコアの破壊は認められていない。臼歯部ジルコニア冠は前歯部に比べてべニアセラミックス層のチッピングの割合が多いが、陶材焼付金属冠と比較すると有意差なしとする報告も出ている。

 これらの臨床経過報告から見えるのは、ジルコニア冠は陶材焼付金属冠と匹敵する臼歯部材料であり、5年後の生存率は90%以上を示すものである。しかしながら陶材焼付金属冠5年間生存率の95%信頼区間が94.1~96.9%(区間幅2.8%)に対してジルコニア冠の95%信頼区間は82.8~95.6%(区間幅12.8%)である。

 信頼区間幅の大きさはデータ信頼性の一つの指標であり区間幅が小さいほど、そのデータに対する信頼性が高いと考えられる。

 この観点からすると、ジルコニア冠の5年生存率は平均値では陶材焼付金属冠と同程度であるが、陶材焼付金属冠と比べて生存率データの信頼性は低いといえる。換言すれば生存率データのばらつきが大きい、つまりジルコニア冠は、症例や技術的要因によって口腔内での生存期間が陶材焼付金属冠よりも影響を受けやすく予測しにくいといえる。

高透光性ジルコニア、積層型ジルコニアに関しての総括的な臨床経過報告はみられない。ジルコニアは陶材焼付金属冠と比べてその応用の歴史が浅いことから、材料選択と適用症例など不明な点もある。臼歯部の審美補綴材料としては、口腔内での信頼性を重視するならば、陶材焼付金属冠の選択も考慮してもよい。接着操作も含めてこれからの技術開発によりジルコニア冠の信頼性は向上すると思われる。

2019年10月 5日 (土)

Science ~材料科学の立場から考える~ ④

続き:

 

3. セラミック冠の接着の重要性

 

 セラミックス材料は脆性材料と呼ばれる。脆性材料の一般的特徴は、金属と違い曲げや引っ張り方向の力に弱いことである。特にセラミックス材料は、表面の傷や内部欠陥(気泡など)は破壊の起始点となりやすい。破壊に際しては、徐々に亀裂が進展するのではく、一挙に破壊する傾向にある。口腔内に装着された冠用材料には、咬合時に曲げ方向にも大きな力がかかる。

 ジルコニアやガラスセラミックス材料は、機械的強度は高いが、脆性材料として特性を示すために過信することは危険である。したがって、セラミック冠と支台歯を一体化して脆性材料としてのセラミックスを補強する必要がある。

 セラミック冠の支台歯への接着は、極論すれば金属冠接着時よりも臨床経過を左右する要因になる。オールセラミック冠における接着操作の基本をまとめてみた。

 

     セラミック冠の接着術式の基本事項

共通               ジルコニア冠                ガラスセラミックス冠

レジンセメントの使用         冠内面清掃にはリン酸エッチングを使用しない    サンドブラストに換えてフッ化水素酸処理

(気泡の混入防止、均一な厚みの    (ジルコニア専用表面清掃剤が有効)        も有効

セメント薄膜にする)

 

サンドブラスト(アルミナ)による   過度の研削・サンドブラスト処理の場合は熱処理    シランカップリング剤(γ-MPTS)による

微小表面粗さの付与が有効       が必要                       シラン処理が有効

 

確実な表面清掃(冠内面、支台歯    酸性機能性モノマー(リン酸エステル系、MDP、

表面)                6-MHPA等)による表面処理

 

プライミングなどの表面処理      セルフアドヒーシブセメント使用時はサンドブラスト

(冠内面、支台歯表面)        のみでもよい                              

 

     

 

 

 

 

 

2019年10月 4日 (金)

Science ~材料科学の立場から考える~ ③

続き:

 

2. 2ケイ酸リチウム系ガラスセラミックス

 2ケイ酸リチウム系ガラスセラミックス(IPS e.max CAD, イニシャル LiSi プレスなど)は優れた審美性材料である。CAD/CAM で製作されるものと、加圧成形(プレスタイプ)によるものである。ジルコニアがジルコニア結晶集合体からなるのに対して、2ケイ酸リチウム系ガラスセラミックスは、SiO2骨格を基本とするガラス構造を有し2ケイ酸リチウム (Li2O・2SiO2) が分散されたガラスセラミックスである。

 CAD/CAM による切削加工前は、メタケイ酸リチウム (Li2O・SiO2)として約40体積%ガラス構造中に分散された状態にあるが、その後の熱処理によりメタケイ酸リチウムは2ケイ酸リチウムに変化し約70体積%に増加し、寸法変化なしに強さ、硬さが増大し歯冠色への変化が起きる。

 ガラス構造は加熱により軟化することができることからその特性を利用した加圧成形タイプ (IPS e.max Press、ヴィンテージ LD プレスなど)は、加熱プレス機により900℃前後で15~25分かけて圧入する。同一メーカーから出されているIPS e.max の場合、加圧成形タイプは機械的強さが CAD/CAM タイプよりやや優れている。

 2ケイ酸リチウム系ガラスセラミックスは、通常のガラスセラミックス(リューサイト系セラミックスなど)に比べると機械的強さは大きいがジルコニアに比べるとかなりちいさい。しかしガラス構造を有することから光透過性はジルコニアより大きく審美性はかなり優れている。

 従って、その特徴を生かすには臼歯部にも使用可能であるが、その適用は前歯部を主としている。臼歯部への適用は、その審美性と機械的強さからみると小臼歯部までの適用が妥当かもしれない。また、臼歯部への適用については冠の厚みを十分に確保することが必要である。2ケイ酸リチウム系ガラスセラミックスは、べニアセラミックスを使用してさらに審美性を向上させている。

 ケイ酸リチウム系ガラスセラミックス (Celtra Duoなど)もある。CAD/CAM 切削後の熱処理によりメタケイ酸リチウム結晶と2ケイ酸リチウム結晶の混合相を析出させたものであり、機械的強さは2ケイ酸リチウム系ガラスセラミックスより大きく光透過性も優れている。

 

 

 

 

 

 

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