日記・コラム・つぶやき

2020年11月26日 (木)

「容量市場」とは何か ⑥

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   拙速かつ問題多き日本の容量市場

 日本の容量市場を簡単に説明する。応札できる電源は、固定価格買取制度 (FIT) の支援を受けている再生可能エネルギーと売電しない自家発電を除く、ほぼすべての電源となる(表 後)。相対取引で売電している発電事業者も容量市場に参加できる。7月に募集された容量は2024年度分なので、現在休止している原発も再稼働を見越して応札することもできる。買い手は電力広域的運営推進機関(OCCTO) のみとなる。

 第1回目に募集する容量は、合計約 1.8 億 kW (1 億7653 万kW) だが、ここから FIT 電源 0.2 億kW を差し引いた約 1.6 億kW が入札対象となる。上限価格は 1万4138円/kWと決定。これは、新設LNG火力発電所を 40年で

  

2020年11月25日 (水)

「容量市場」とは何か ⑤

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   低コストと実用が進む蓄電池

 2020年2月にフランスで行なわれた容量入札では、合計 253MW のエネルギー貯蔵と124MW の需要側管理が落札した。フランスは参加できる容量に200g(co2)/kW時の炭素制約を設けているので、事実上、蓄電池と需要側管理以外には参加できない仕組みとなっている。

 南オーストラリア州では、容量メカニズムではないが、2017年にテスラ社が建設した 100MW/129MW時の巨大バッテリーが、周波数調整市場で大活躍し、僅か3年弱で投資回収に成功したほか、2018年夏に起きたあわや停電という事態も未然に防止している。

 2020/05/08には、インドで24時間365日稼働が条件の「太陽光+バッテリー」の入札が行なわれ、東京電力と中部電力の発電子会社JERAが資本参加する企業が約 5.4円/kW 時で落札した。この価格はインドの通常の電力調達価格を下回っており、「太陽光+バッテリー」がすでに競争力を持ったことを意味する。

 24時間365日稼働できる「太陽光+バッテリー」はベースロード電源だが、それ自体が柔軟性を持った調整力にもなる。しかも太陽光は過去 10年で発電コストが 9 割減、蓄電池も 75%減と、いずれも技術学習効果によってコストが下がっており、この先も継続的なコスト低下と急速な拡大が予測される。となれば、インドにとどまらず、今後ますます世界中で24時間365日稼働する「太陽光+バッテリー」や、南オーストラリア州のような巨大バッテリーが広がってゆくに違いない。

 今後の主力エネルギーとなる自然変動型の太陽光発電と風力発電を飛躍的に拡大する上で、柔軟性のない原発はおろか、石炭火力やガス火力を維持する必要は、本来、市場の倫理からいっても早晩なくなる。この変化の速さを考えると、数年先の「容量」を維持する容量市場という制度自体が、意味がなくなる時代に突入しつつある。

2020年11月24日 (火)

「容量市場」とは何か ④

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ドイツのケース

 ドイツでは、2014年10月に連邦経済エネルギー省が「緑書」(議論素案)を公表した。その中で、さらなる電力市場改革で柔軟性を高める「電力市場 2.0+戦略的予備力」と「容量市場」を設ける 2 つの案を提示した。

 これに対して、三つの研究機関から分析報告書が出され、総費用が「電力市場 2.0+戦略的予備力」の方がおよそ 1/10 にとどまること、容量市場は再生可能エネルギーの活用を妨げることなど、容量市場のデメリットが確認された。幅広く団体や個人から意見も公聴し、「電力市場 2.0+戦略的予備力」に決定したのだ。

 因みに、そのドイツの場合でさえ、ドイツ大手電力会社 RWE は自社の褐炭発電所に対して全社売上の 13%に相当する容量支払いを得ることに成功したと Burg (2016)は報告している。

2020年11月23日 (月)

「容量市場」とは何か ③

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「失われたお金」か、棚ぼた利益か

 容量メカニズムで先行した米国で2005年頃から「ミッシングマネー(失われたお金)問題」が認識され始めた。ミッシングマネー問題とは「自由化された電力システムが抱える大きな課題で(中略)投資回収のために必要なお金が十分得られない問題。電力市場から得られる収入が、電源投資を回収するために十分な水準でなく、既存電源の採算性が悪化するとともに、新規の電源投資も起こらない」と現役の電力会社社員が定義していることは興味深い。

 日本での制度検討でも「自由化の進んだ欧米諸国では、市場で電気 (kWh) を販売して得る収入だけでは固定費 (kW)が回収できずに、発電投資が減退し、必要な供給力を確保することができないのではないか」とミッシングマネー問題を紹介した上で、「適切なタイミングで投資が行われず、供給力の不足が顕在化する事態に陥る前に、適切なタイミングで電源投資が行なわれるようにするためには、投資回収の予見性を高める必要がある」としている。

 近年、VRE が急拡大してきた欧州では、この問題がより切実に浮かび上がり、容量メカニズムに注目が集まってきたのである。その結果、英国で容量市場を選択し、対照的にドイツは戦略的予備力を選んだ。その経緯は日本に参考になるため、簡単に紹介する。

英国のケース

 英国では、VRE の急増受けて、2010年から容量メカニズムの必要性が議論され始めた。EUで統一的な容量メカニズムのルールを検討開始した初めてのケースであり、注目を集めた。Lockwood (2019)らの調査に言えれば、英国政府は、検討を始めた当初、ドイツが後に選択した戦略的予備力が有力だった。ところが、六大電気事業者 (ビッグ 6)による政治・行政の両面にわたるロビー活動や影響力を行使した結果、ビッグ 6 にとって実質的に補助金システムと同等な容量市場へと議論が誘導された経緯があると報告されている。

 これは、福島第一原発事故後の国会事故調査会報告でも指摘された「規制の虜」現象と同じだ。規制機関が被規制側の勢力に実質的に支配される状況で、政府の失敗の一つである。容量市場の制度設計においても、新しい分野での専門性や複雑性の高い領域での政策形成であるがゆえに、その領域で知識も情報も人材も資金も豊富な大手電力会社は、政策ロビーを通じて自らの利益、つまり既存の資産と投資の収益を保護する方向に政策を誘導する「規制の虜」が指摘されている。この政治リスクは日本でも疑われる。

 実際に、英国で2014年に実施された容量市場入札では、落札の95%が既存の電源か改修電源で、新規電源が5%に過ぎず、半分以上がガス発電(コンバインドサイクル発電)だった。この結果、2018年11月には英国の容量市場に対する異議申し立てが行なわれ、EU一般裁判所で違法な補助金と認定される。欧州委員会は2019年10月に英国の容量市場を競争政策上、問題ないと結論づけたものの、目前に迫った英国離脱との関係も疑われ、不透明さが残った。また容量市場入札の結果、英国の電力市場は安定供給に必要とされる水準よりも4倍もの余裕を持つことになった。これは、ビッグ 6 にとっては「棚ぼた利益」だが、消費者にとっては余分な負担が毎年 2億 7000万ポンド (約380億円) になるという批判もあるのだ。

2020年11月22日 (日)

「容量市場」とは何か ②

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容量市場の誕生と変遷

 容量市場の考えは、1990年代末に米国で誕生した。地域独占と発電・送電・小売の垂直統合が続いてきた電力会社の発送電分離や電力市場の自由化が始まった頃。それ以前の電力独占体制のもとでは、電力需給の長期的な見通しに沿って余裕を持って発電所を計画・建設、必要となる資金も総括原価方式など規制された電気料金で賄うことができた。ところが電力自由化によって、電力安定供給、とくに稀にしか起きない需給逼迫時のための「余分な発電所」が維持できないおそれが生じてきた。電力市場で卸電力価格が変動、また期待しただけの電力販売量が期待できないと、既存の発電所の早期閉鎖や新規発電所への投資が進まない懸念が出てきた。

 米国や欧州などでは発送電分離を含む電力自由化後に、送電系統を従前の電力会社から独立して運用・管理するために「独立系統運用機関」 (ISO/RTO/TSO)という組織が誕生した。送電系統はいわば高速道路と同じであり、その上で運ばれる財(=電力)の発電や小売という競争市場から独立する必要があるからだ。米国に9機関あるISO/RTOの内、米中東部ペンシルバニア州などをカバーするPJMなどのいくつかのISO/RTOが最初の容量市場を設置した。日本は、このPJMの容量市場と英国を「お手本」にした。

 なお、容量市場は広義には「容量メカニズム」と言い、いくつかの類型がある(表 1)。なお、戦略的予備力とは、電力システムの供給安定性を確保する最後の手段として必要な一定規模の発電所(既存または新規)を卸電力市場の外に維持するために、入札で決まった費用を電力系統の管理者が支払うという仕組みだ。容量市場に比べると、必要な費用は格段と小さくなる。

 そもそも容量メカニズムは不要との考えもあり、同じ米国でもテキサス州のISOであるERCOTやノルウェー、デンマーク、オランダなどは、卸電力市場だけで対応している。後述するドイツも幅広い公論を重ねて、容量市場ではなく、「戦略的予備力」を選択した。容量メカニズム全般に対しては、次の批判がある。

①過去の実績に基づく過大予測で価格を歪める 

②市場全体で電源を確保する容量市場は高いコストになり消費者負担を増す

③既存電源に「棚ぼた利益」をもたらす

④本来必要な新しい電源の投資に結びつかない

⑤市場ルールが絶え間なく変わることによる混乱

⑥石炭など環境に好ましきない電源が固定される恐れ

        表 1  容量メカニズムの類型

    範囲  市場全体(容量市場)  市場全体(容量市場) 特定電源(ターゲット) 特定電源(ターゲット)
    区分     集中型     分散型      量      価格
    手法      入札     容量義務    戦略的予備力      容量支払
    採用国   英国、PJM  フランス、ギリシア等  ドイツ、スウェーデン、  スペイン、イタリア、
       ノルウェー 等  ポルトガル等

 

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2020年11月21日 (土)

「容量市場」とは何か ①

飯田哲也(環境エネルギー政策研究所(ISEP)所長)さんは「世界 10」に載せている コピーペー:

 この7月、日本で初めてとなる「容量市場」の入札が行われた。8月末に結果が出る予定。多くの人にとっては聞き慣れない「市場」だろう。欧米でも同様または類似した仕組みが施行された段階であり、導入しない国や地域も少なくない。日本でも容量市場への批判は多く、そもそも不要、との声もある。電力市場自由化では周回遅れの日本が、容量市場の導入は急いだ。

 本稿では、容量市場がなぜ登場してきたのか、その成り立ちから説明し、とりわけ「日本型容量市場」の問題点を指摘しておきたい。本来の意図から外れて、新電力や自然エネルギーを封じ込め、原発や石炭と大手電力会社の独占を維持する「官製市場」となるおそれがあるのだ。

容量市場とは何か

 容量市場とは、一言で要約すれば、太陽光発電などの自然変動に対する調整力や万が一の停電を避けるために、将来必要となる電源設備の「容量」確保するための市場のことを言う。従来の卸電力市場が発電した「電力量」(kW時)を取引するのに対して、容量市場は発電することが可能な「容量」(kW)を取引する市場と定義される。

 近年、太陽光発電や風力発電のコストが急速に下がり世界中で急拡大するエネルギー大転換が進行中だ。これが気候危機への切り札として期待されており、今後もこの普及拡大をいっそう加速させる必要がある。

 太陽光発電と風力発電は風や日照などで出力が変動する自然変動電源(VRE)と呼ぶ、燃料が不要のため、卸電力市場にほぼタダの電気として流れ込んでくる。このため卸電力市場の価格が安くなり、価格変動が大きくなる。

 実際に、日本でも卸電力取引所(JEPX)のスポット市場で、九州をはじめ西日本の電力価格が最低の0.01円/kW時で約定する頻度が増加しており、欧州の市場ではマイナス価格になる場合もある。

 その結果、天然ガス火力発電など既存の調整電源は市場に参入できずに稼働率が下がる上に、市場価格も下がる傾向にある。こうなると、新規の調整電源の投資が進まず、既存の電源の維持も懸念される事態になってきた。

 このように、VREを増やせば増やすほどその調整力を維持することが難しくなる、というジレンマに直面することとなった。調整力が減ると、異常気象や万が一の事故・トラブルによる広域停電など安定供給も懸念された。その解決策の一つが「容量市場」というわけだ。

2020年11月20日 (金)

Clinical 口腔内スキャナー~補綴装置製作(精度・可能性)~⑦

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おわりに

 ここまで口腔内スキャニングデータを用いたいくつかの補綴装置の精度や可能性について述べてきたが、今後さらに応用範囲が広がることは間違いない。現在、社会生活において ICT に代表されるデジタル機器はなくてはならないものであり、今後の歯科界でも同様である。補綴装置の製作は、デジタルテクノロジーの進化と普及によって既存のシステムに代わって、最新の環境に合ったシステムが構築されることになる。

 特に口腔内スキャナーの普及は歯科医院にも歯科技工所にも多くの変化とシステムの改革をもたらすデジタルディスラプション(これは、デジタルテクノロジーによって既存の産業が破壊され、革新的な変化がもたらされることの意味)を生じている。

 歯科技工士の志望者が激減している歯科技工業界の現状を考えても機器のデジタルテクノロジー化は避けられない変化だ。今後、数年以内に口腔内スキャニングから技工物完成に至るシームレスなデジタルワークフローが標準化していき、歯科医院も歯科技工所もシステム変更のイノベーションが必要となる。

 一方で、歯科用デジタル技術は、あくまでも治療のための道具に過ぎないことを頭に留めて、これまで以上に適切な診断と治療法を考えなければならない。また、新しい材料に対して治療後の経過観察を慎重に行い、問題点の把握、調整を行う必要があることを忘れてはならない。

2020年11月19日 (木)

Clinical 口腔内スキャナー~補綴装置製作(精度・可能性)~⑥

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6. 3Dプリンターの再現性を検討する

 口腔内スキャニングデータを用いて、3Dプリンターで樹脂製の作業用模型を製作することができる。

間接法→印象採得――模型製作――――ワックスアップ――→鋳造冠・メタルフレーム

               ――→ 3D スキャン――→ CAD/CAM 冠

直接法→口腔内スキャニング→●   CAD/CAM 冠

             →●   3Dプリンター模型――→鋳造冠 , Press 冠

             →●  3Dプリンター冠

             →●  3Dプリンターアライナー

             →●  3Dプリンターメタルフレーム

この作業用模型上でワックスアップを行えば、従来の間接法と同じ鋳造冠や、セラミックプレス冠を製作することができる。模型の再現精度についてはスキャニングデータが同じであれば、3Dプリンター機器の性能が関係する。今回、比較的安価な機器と中程度の価格の機器、そして高価な機器を用いて模型再現精度の検証を行った。

 はじめに比較的安価な機器(Form2) で作業用模型を製作した。この機器で製作したプリンター模型でワックスアップを行い、白金加金鋳造冠を製作。模型上では適合良好。口腔内に試適してみるとコンタクトがきつく、患者は強く違和感を訴えた。フィットチェッカーで調べると天井面の厚みが大きく、若干の浮き上がりが見られた。コンタクト調整を行って違和感は消失した。

 次に、中程度の価格の機器(rapidshape) で同じように鋳造冠を製作して口腔内に試適すると、コンタクトがややきついという程度で、患者はあまり違和感を訴えなかった。フィットチェッカーでの浮き上がりも見られない。

 最後に高価な機器(stratasys) でも同様にワックスアップをして鋳造冠とセラミックプレス冠(e-max press 冠) を製作した。その鋳造冠を口腔内に試適すると、患者は全く違和感を訴えないで装着できた。フィットチェッカーで調べても良好である。セラミックプレス冠についても装着に違和感を訴えることはなく無調整で装着できた。

 これらの結果から、それぞれの機器によって再現の正確性は異なることが確認できた。また、口腔内スキャナーによる直接法で製作した 3Dプリンター模型を用いて製作した鋳造冠やプレス冠でも十分に臨床応用が可能であることが分かった。

7. 口腔内スキャナーの可能性

 口腔内スキャニングデータを用いて 3D プリンターで樹脂製の作業用模型を製作できることは前述したが、それ以外に 3D プリンターの用途は多くある。口腔内スキャニングデータで CAD/CAM 冠を製作する方法以外に、金属成形できる 3Dプリンター装置(金属粉末積層造形システム)がある。現在はコバルトクロム材料が主であるが、コバルトクロムの金属冠やブリッジ、金属床フレームなどは臨床導入されつつある。この機器の特徴はデータをプログラムすれば1回400ユニット製作が可能でミリング機器より圧倒的に政策効率が高い。高価な機器で、中小の歯科技工所が購入することは難しいが、センター方式で各技工所から設計データを送信して加工した物を各技工所で仕上げるようにすればよい。

 当医院で臨床応用した症例では、口腔内スキャニングデータを用いて金属粉末積層造形システムで上顎の両側臼歯部5歯にコバルトクロム冠を製作した。出来上がった冠を口腔内に試適すると無調整で装着できた。隣接面コンタクトの調整も必要なかった。内面適合を調べると CAD/CAM 冠より天井面は薄く内面隙間は均一ではなかったが、現状でも臨床的に問題のない適合状態といえる。

 次に、口腔内をスキャニングしてパーシャルデンチャーの金属床フレームを製作した。この時、間接法と直接法の二つの方法でフレームの製作を行った。直接法で製作した金属床のフレームを口腔内で試適すると、無調整で装着できた。無理のない適度な摩擦を感じながら着脱が可能でパッシブフィットであり、歯の移動に伴うような摩擦抵抗は認めなかった。間接法で製作した鋳造床フレームを試適すると、挿入時の摩擦抵抗が大きく、歯の移動を伴った装着感を感じた。患者に装着感を聞いてみると同様であった。直接法で積層して製作したフレームは歯を締め付けるような装着感は感じられず、スムースに装置できたとのことであった。

 一方、間接法で製作した鋳造床フレームを装着してもらうと、装着時に、歯が締め付けられるような感覚があり、着脱がきついと感じていた。この違いは、口腔内スキャナーは、無圧印象で従来の印象時のような歯の移動がないためと推測される。さらに咬合状態を確認すると、咬合面レストの咬合調整が直接法では必要がなかったが、間接法では咬合調整を必要とした。これから、金属粉末積層造形システムを用いた補綴装置の製作は、臨床応用が可能であることが分かった。今後、機器の導入が進めば、ミリング機器と併用していくことになryだろう。

 

 

2020年11月18日 (水)

Clinical 口腔内スキャナー~補綴装置製作(精度・可能性)~⑤

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4. 口腔内スキャナーとインプラント治療

 口腔内スキャナーはインプラント治療においても活用範囲が広く、アドバンテージを持っている。従来の間接法による治療法の流れと比べて口腔内スキャナーを用いたデジタルワークフローは、インプラントの埋入計画からサージカルガイドの製作、補綴装置製作の流れまで導入の利点が高い。

   口腔内スキャナーを用いたインプラント治療のワークフロー

  a:口腔内スキャニングデータと CT データを重ねてインプラント埋入位置の設計を行う。

  b:埋入設計を基に3Dプリンターでサージカルガイドプレートを製作し口腔内に試適してみる。

  c:サージカルガイドプレートを用いてインプラントを埋入。

  d:埋入して 10週間後に上部構造製作のためスキャンボディを装着してスキャニングし、補綴装置のモデリングを行う。

 インプラントの埋入ガイドを製作するには、従来法で印象採得して製作した石膏模型をスキャニングしてCTデータとマッチングを行っていたが、直接口腔内をスキャニングしたデータがあれば、模型製作することなくサージカルガイドの設計、製作が可能である。また補綴装置製作時のスキャニングデータを用いれば、術前の埋入設計と埋入後の位置関係を術後に CT を撮ることなく比較することもできる。上部構造の製作のための印象法も、シリコーン印象のオープントレー法は操作が煩雑で、手間がかかる。クローズトレー法では印象キャップのズレを確認することができないという問題もあった。それが、口腔内スキャナーによるスキャニング方法では、短時間で簡単・正確に行える。3歯連続冠でも完成したジルコニア冠は口腔内での適合は良好で、隣接面コンタクトは無調整で短時間にセットできた。

 筆者(野本)はこれまでにスキャナーを用いて100症例以上のインプラント治療を経験したが、直接法で製作した上部構造は間接法で製作したものと比べて明らかに口腔内での調整は少なく、チェアタイムが短縮している。インプラント治療において、治療計画~上部構造製作までのデジタルワークフロー化の恩恵は天然歯より大きい。口腔内スキャナーを診療室に導入するというデジタル化だけでもデジタリゼーションの効果は大きいものです。

 上部構造製作のために口腔内スキャナーでスキャニングしたデータと、埋入設計時の CT データを重ねると、埋入設計と埋入後の詳細な誤差検証が可能である。埋入誤差は中間欠損では 0.5mm 以下であることがほとんどで、直接法で製作するサージカルガイドプレートの精度は高い。

5. 口腔内スキャニングデータの応用

 口腔内スキャナーは口腔内のデータをデジタル化して保存できることが一番のメリットで、デジタルデータを用いて異なる方法で補綴装置を製作することが可能である。口腔内スキャニングデータを用いて鋳造冠を製作するには、WAX パターンをミリングすると同時に、比較のためジルコニアをミリングした。ミリングした WAX パターンは埋没して鋳造を行った。鋳造して仕上げた金属冠を口腔内に試適するとマージン適合、隣接面コンタクト、咬合コンタクトは良好であった。しかし内面適合をブルーシリコーンで調べると、同時に製作したジルコニア冠と比べて WAX パターンは内が粗造で厚みが均一でない、マージン部に厚みがあった。これらの結果、WAX をミリングするには均一に削ることが困難、パターンのマージン部分は薄いため、広がってしまう可能性があることが分かった。この方法で製作した冠の内面適合性については問題が残る結果となった。

 

2020年11月17日 (火)

Clinical 口腔内スキャナー~補綴装置製作(精度・可能性)~④

続き:

 直接法で製作したチタン冠とジルコニア冠は、間接法で製作した模型に試適してみるとコンタクトが合わない。しかし、口腔内に試適するとコンタクトは未調整でジャストフィットしている。隣接面コンタクトと咬合面コンタクトは無調整で装着することができた。ブルーシリコーンで内面適合をチェックするとほぼ均一であった。また、咬合面コンタクトも設計通りに舌側咬頭の内斜面に均一にコンタクトしていることを確認できた。このことから、間接法の模型と口腔内の形状が同一ないことが分かった。

 以上の結果から、ジルコニアなどの CAD/CAM 冠は、間接法で製作するより直接法で製作したほうが適合精度は高く、隣接面コンタクトや咬合面コンタクトの調整も少なく済むことが分かった。鋳造冠と CAD/CAM 冠の内面適合性は間接法で製作した鋳造冠のほうが良好であるが、咬合調整やコンタクト調整を必要とすることが多い。CAD/CAM 冠は、レジンセメントの接着性と強度が向上したことで、現状の内面適合でも適切なレジンセメントの操作をしていれば臨床的に問題がないことは、10年以上の多くの経過症例から実感している。

 これらの直接法で製作する CAD/CAM 冠は基本的には作業用模型を必要としないが、ジルコニアにセラミックを築盛する場合やロングスパーンのケースでは 3D プリンター模型が必要となる。

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