日記・コラム・つぶやき

2020年4月 8日 (水)

Report 2020 脳卒中・循環器病対策基本法 ③

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 また、「脳卒中・循環器病対策基本法」では基本的施策に関して、喫煙、生活習慣、肥満など循環器病発症のリスクについての知識を啓発し予防を推進すること、循環器病を発病した人の搬送および医療機関の受け入れ体制を整備すること、良質かつ迅速で適切な医療が全国どこでも継続的に提供されるように連携協力体制を整備することなどとともに、循環器病の予防、診断、治療、リハビリテーションそれぞれの領域で革新的な方法の研究開発を促進することも規定している。

 研究について同法では、特に附則として「政府は、肺塞栓症、感染性心内膜炎、末期腎不全その他の通常の循環器病対策では予防することができない循環器病等に係る研究を推進するとともに、その対策について検討を加え、その結果に基づいて所要の措置を講ずるほか、歯科疾患と循環器病等に係る研究を推進するものとする」と述べ、国の事業として歯科疾患と循環器病発症との関係の研究に本格的に取り組むことを明記している。

 歯科疾患、特に歯周病と狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、糖尿病の発症との関係などは様々にクローズアップされてきているが、まだ検討途上の諸説も多い。同法の施行により、今後の臨床研究に弾みがつくことを期待したい。

2020年4月 7日 (火)

Report 2020 脳卒中・循環器病対策基本法 ②

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 近年、「環境基本法」、「高齢社会対策基本法」など各分野で基本法ができているが、医療・保健分野では「がん対策基本法」、「肝炎対策基本法」などがある。「基本法」とは名乗っていないものでも、例えば「健康増進法」や「歯科口腔保健の推進に関する法律(歯科口腔保健法)」などは基本法としての性質を持つとされる。基本法で定める内容は抽象的なものが多く、基本法でできたからといって具体的な施策に直結するわけではないが、当該分野の施策の方向付けを行い、他の法律や行政を後押しする「親法」の役割を果たしている。

 日本脳卒中協会や日本循環器学会をはじめ関係領域の学術団体や職能団体、患者会・家族会などは10年越しでこの基本法の立法化を求めていた。基本法が成立・施行となったことで、脳卒中・循環器疾患の予防対策、医療・介護の負担軽減につながるものと期待されている。

 この法律は国に「循環器病対策推進基本計画」の策定を義務付けている。これを受けて厚労省では、循環器病対策推進協議会(会長:永井良三自治医科大学学長)を設けて検討を進めており、2020年夏頃までに具体的な基本計画を策定したいとしている。

 

2020年4月 6日 (月)

Report 2020 脳卒中・循環器病対策基本法 ①

広多勤(横浜ヘルスリサーチ代表)さんのレポートを載せる。コピーペー:

 

 「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病での他の循環器病に係る対策に関する基本法」(脳卒中・循環器病対策基本法)が2019/12/01、に施行された。この法律は、循環器病が死亡の原因および介護を要する状態となる主要な原因となっていることから、「循環器病対策の基本となる事項について定めることにより、循環器病対策を総合的かつ計画的に推進すること」を目的としている。

 日本の死因は首位のがんに次いで心疾患が第2位、脳血管疾患が第3位を占め、両疾患を合わせて年間約31万人以上が亡くなっている。また、介護を要する状態になった人の約20%超は両疾患が原因だ。さらに循環器系の疾患は医科診療医療費の約20%を占めている。厚労省は、これら循環器病は「生活習慣の改善等により一定の予防が可能な疾患にもかかわらず、国民の生命と健康にとって重大な問題となっている」として、総合的な循環器病対策を推進するために本法が制定されたとする。

 この新法のように「基本法」と呼ばれる法律は、国の制度・政策に関する理念、基本方針を示し、それに沿って講ずべき措置を定めている。

2020年4月 5日 (日)

外資がこじ開けるカジノ市場 ③

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カジノ管理委員会の新設

 2019年の臨時国会は「桜を見る会」で紛糾したが、陰ですんなり通った事業があった。カジノ管理委員会のトップ人事である。委員長に元福岡高検検事長の北村道夫氏、委員に元名古屋国税局長の氏兼裕之氏、元警視総監の樋口建史氏ら計5人が選ばれた。検察、国税局。警察など権力組織のOBを骨格に据えたのだ。

 アジアで国際金融に携わる銀行幹部は「カジノは犯罪組織が資金洗浄を行なう場で、タックスヘイブンの入り口でもある」と言う。近年、勃興するシンガポールとマカオがいい例だ。シンガポールは「東洋のスイス」と「明るい北朝鮮」を併せ持つ都市国家とも。スイスのように海外の資産家が旅行者を装って訪れ、タックスヘイブンに資金を移す「プライベートバンキング」の舞台。表面はモダンだが、強権政治によって秩序は保たれている。

 マカオは中国の高級官僚や富裕層が博打に興ずる遊び場。北京政府は国内で賭博を禁じながら、マカオを「ガス抜き」に利用している。北朝鮮がマカオの銀行を通じて資金取引していたのも、マカオの特殊性を物語っている。

 賭博には闇の勢力、イカサマ、脱税などカネをめぐる犯罪が絡みやすい。公認博打が暴走しないよう目を光らすのがカジノ管理委員会だ。国家公安委員会や公正取引委員会と同格で、100人規模の役所として2020年1月に発足。公務員の定員が厳しく管理され、人員削減されているというのに、日本でひと儲けを企てる外資カジノを迎えるために、役所をひとつ用意する。「世界でもっとも厳しい規制」と言いながら、上限面積さえ業者の一言で撤廃される現実。—懸念されるのは警察国家の強化だ。反社会的勢力やマネーロンダリングを口実に、中央・地方カジノ団体に警察が人を送り込むだろう。パチンコ業界は「暴力団対策」で警察の縄張りに入った。元警視総監をカジノ管理委員会に押し込んだように、安倍政権で力を警察官僚の拡張・拡大は要注意だ。

 去就が注目されている横浜市では、推進へと舵を切った行政に対し、市民が住民投票で対抗する。住民投票実現には6万人余の署名が必要だが、署名集めができる「受任者」がすでに1万2800人に達した(2019/12/11現在)。世論調査では大多数が「カジノ反対」だ。

 カジノ資本は、儲けた資金をロビー活動に注ぎ、大統領まで取り込んだ。首脳会談で「圧力」がかかり、国会では与野党議員が一本釣りされる。着々と進む「カジノ開放」を市民は阻止できるか。日本の民主主義が問われる一場面でもある。

 

 

2020年4月 4日 (土)

外資がこじ開けるカジノ市場 ②

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トランプ大統領とカジノ資本

 カジノに「トランプ・安倍関係」が絡むことは米国のメディアが指摘している。ネットメディア「プロパブリカ」は、安倍首相の2017年2月訪米の際、トランプ大統領がカジノ大手のラスベガス・サンズ(以下、サンズ)の名前を挙げて日本参入を働きかけたと報じた(2018/10/10)。サンズの会長シェルドン・アデルソン氏はトランプ大統領の大口献金者として有名。プロパブリカによると、首脳会談を終えた安倍首相はトランプ氏の別荘「マール・ア・ラーゴ」に招かれ、ゴルフや食事で接待された。大統領は突然アデルソン氏のカジノ事業を話題にし、日本での事業認可の検討を求めたという。

 アデルソン氏は米国のカジノ資産のキーマン。一代で富を築いたユダヤ系ビジネスマンで、トランプ大統領の娘婿クシュナー氏と親交が深く、大統領選挙では2000万ドル(22億円)を寄付、大統領就任式には500万ドルを提供。安倍首相がトランプ氏の大統領就任前に面会できたのは、アデルソン氏の仲介があったからとも言われている。

 面会は2016/11/17、トランプタワーで行われた。そして12月15日には衆議院本会議でIR推進法案(カジノ法案)が強行採決。それまで、審議未了・廃案を繰り返し、店晒しになっていたカジノ法案は、一転して力ずくの成立だった。「トランプタワーの密約」を疑う憶測が広がっている。

 2017年2月首脳会談は前記の通り。アデルソン氏は動き出す。9月には大阪を訪れ、松井一郎知事(当時)、吉村洋文市長(当時)と会った。取り囲んだ記者団に、「カジノ面積の上限規制撤廃」を訴えた。政府は有識者懇談会を受けて床面積に上限を設けることにしていたが、「これではベストなIRはつくれない。投資額を減らすことになる」と批判。後に政府は「面積上限」を取り払い、「カジノはIR施設全体の3%以内」に変えた。

 ラスベガス・サンズの広報は、日本の政治家への働きかけについて「カジノ業界は日本市場でビジネスができるよう多年にわたりロビー活動に資金を注いできた。当社も同様の活動に取り組んでいる」とプロパブリカに答えている。

 2019年6月、ちょっとした波乱が起きた。サンズの戦略担当のジョージ・タナシェビッチ氏が「ターゲットを大阪に一本化する」と産経新聞に表明した。サンズは首都圏の本命とみられていただけに衝撃が走った。「横浜は態度がはっきりしない。東京は五輪で手一杯。大阪は府市共に姿勢が明確だ」と述べた。横浜の林市長は住民の反対などを気にして乗り気薄だった。そこにサンズは「ぐずぐずしていると大阪と組むぞ」と言わんばかりの警告を発した。カジノ受け入れを市長が発表すると、アデルソン氏は声明を出した。「大阪から撤退し、東京・横浜の首都圏に注力する」。

 カジノ資本が日本上陸を急ぐ背景に「米中激突」が絡んでいる。マカオはラスベガスの4倍の規模で、サンズ、MGMリゾーツ、ウィン・リゾーツの3社が進出し大儲けしている。2022年に免許の更新期を迎えるが、マカオ行政庁は2018年、自動更新はせずゼロベースで審査するとの方針を打ち出し、業界に激震が走った。

 更新できなければホテルや劇場などIR全体が立ち枯れになる。トランプの支援者が営むカジノを人質に取る北京政府の戦略とも?米中交渉は不確定要素が多い。免許失効リスクに備え、マカオで遊ばせている顧客の「受け皿」を必要とする。3社は、日本の「3枠」に熱い目線を注いでいる。業界では「大阪はMGM、首都圏はサンズ」という予想がもっぱらだ。

 

菅官房長官のお膝元

 政府でカジノを所管するのは内閣官房のIR整備推進本部。本部長は安倍総理だが、実質的な仕切り役は菅官房長官である。規制のさじ加減や自治体選びなどは菅氏が握っていると言われる。カジノ誘致は東京から始まったが、猪瀬、舛添と続いた都知事の迷走でカジノどころではなくなり、間隙を縫って菅氏が乗り出した、と自民党内では語られている。制度の根幹を差配する官房長官、横浜を選挙区とする政治家という2つの立場を兼ねる権力者の尻を外資が叩く、という構造に今の日米関係が投影している。

 安倍政権は米国から農産物の市場開放を迫られているが、カジノも「市場開放」が迫られている。政府や国会がカジノ誘致をしているように見えるが、アメリカの要求に沿って動いていると見た方が分かりやすい。首脳会談で圧力をかけて、自分の選挙に都合のいい決着を目指すところがトランプ流である。

 アデルソン氏は「1兆円の投資をする」と宣言して自治体や経済界を喜ばせるが、1兆円投資するのは、1兆円以上の回収が日本でのIRで期待できるからこそなのだ。―――狙われているのは日本国民の懐である。

2020年4月 3日 (金)

外資がこじ開けるカジノ市場 ①

「世界 2」の中に「問題は治安や依存症だけではない。国際カジノ資本は安倍政権にくいこみ、地域活性どころか国民の富が吸い上げられかねない状況だ。蠢く力関係を読み解く。 著者—山田厚史(ジャーナリスト)さんはいっている。コピーペー:

 

 北海道の鈴木直道知事は2019/01/29、苫小牧市を候補地としていた統合型リゾート(IR)の断念表明した。環境調査が間に合わないというのが表向きの理由だが、カジノを巡る賛否・利害は複雑。道の調査では誘致に不安を抱く住民は66%だ。インフラ整備に多額の資金がかかり、「苫小牧だけのために使うのか」など道議会の反対もあった。

 政府は2019年9月、「IRの指定は当面、国内3ヵ所(大都市圏2、地方都市1、)に限定、2021年までに申請を受け付ける」との基本方針を打ち出した。この時点で大阪市、横浜市、東京都、千葉県、愛知県、北海道、和歌山県、長崎県の8自治体が準備を進めていた。申請には、パートナーになるカジノ・IRの運営業者を決めなければならない。「自治体が企業を選ぶ」という形だが、日本に存在しないとばくの実務を知るのは国際カジノ資本である。その助けがなければ事業や採算計画さえ立てられない。巨大な利権が生まれ、政治が介在する。自治体の手に余ることばかりで、誘致合戦の決め手はロビー活動に熟達するパートナー選び、とも言われる。

 

狙われる日本市場

 「世界で有望市場として残っているのは、いまやブラジルと日本ぐらい」とカジ業界で言われてきた。ホテルや劇場などを備えたIRは砂漠都市ラスベガスで発展した。米国では先住民居住区に特権として賭博が許された。ラスベガスの成功が刺激となり、地域振興策としてカジノを誘致する州が増えた。NY近郊のアトランティックシティなど都市型のカジノが認可されると、乱立と共倒れが社会問題になる。企業家時代のトランプ米大統領もカジノ経営に乗り出し、手痛い失敗を経験している。

 米国で儲からなくなったカジノ資本が目指したのがアジア市場だった。アジアの特徴は「寡占」。政府の権限が強く、業者の利益は保証される。シンガポールが賭博解禁に踏み切り、中国に返還されたマカオはカジノに活路を求めた。冷戦後の平和が富裕層や貯蓄を増やし、アジアは国際カジノ資本の餌場となった。

 日本は世界最大の対外純資産を抱える資本大国なのだ。その日本で商売ができるのは、わずか3社なのである。ここに入り込もうと国際カジノ資本はしのぎを削る。

 

北海道、大阪、横浜の事情

 北海道で積極的だったのはカジノ資本としては中堅のハードロックカフェ。震災被害に10万ドルを寄付するなど地元対策に汗をかいたが、政治を動かすことはできなかった。北海道の断念は「ハードロックカフェの脱落」とみられている。

 大阪は埋立地の「夢洲」が予定地。関西空港の対岸で、2025年には万博が予定。万博後をカジノ都市の勃興で盛り上げようという発想で、関西財界が応援。カジノ大手・MGMリゾーツ・インターナショナルが積極的だ。同社のミューレン会長は朝日新聞(2014/07/18朝刊)に登場し、「5000億円を投資する用意がある」と語っていた。MGMはオリックスと合弁会社を作り、日米共同で大阪市に働きかけている。

 横浜市では、態度を曖昧にしていた林 文子市長が2019/08/22、突然「山下埠頭にカジノ誘致を」と表明。真っ先に反対したのは「ハマのドン」と呼ばれる藤木幸夫・横浜港運協会会長。横浜スタジアム会長も務め保守政界とのパイプを持つ89歳は「昭和16年前後と似たハードパワーを感じる」と語った。「影響力のある菅官房長官がからんでいるということか」との質問に、「(菅氏は)安倍さんの腰巾着でしょ。安倍さんはトランプの腰巾着。安倍も菅もトランプの鼻息を窺って、寂しいけど、現実はそうでしょ」と政治家の介在があると示唆した。

2020年4月 2日 (木)

Science~緑茶由来カテキンを応用した新規骨再生材料開発~⑥

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7. カテキンゼラチンの抗炎症効果、酸化ストレス抑制効果、破骨細胞抑制作用

 EGCGは単独使用において、抗炎症作用、抗酸化作用、免疫調整作用が報告されているが、ゼラチンお結合したEGCGでもこれらの機能を示すのだろうか。筆者らは近年、EGCGはゼラチンへ修飾されていても周囲組織からの活性酸素の分泌を抑制することを明らかにした。

 さらに、活性酸素は炎症を増強し、ゼラチン分解酵素(マトリックスメタロブロテアーゼ)の発現を高めることが知られているが、vhEGCG-GS周囲ではマトリックスメタロブロテアーゼの発現が低下していた。同効果は、細胞の足場として働くゼラチンの急速な分解を抑制し、スペースメイキングや、細胞遊走、細胞分化の足場を提供するなどの側面から、vhEGCG-GSの骨形成向上につながっていたと考えられる。また、スポンジ状としての応用ではないが、EGCG結合ゼラチンを溶液として用いた場合、マクロファージの抗酸化酵素の遺伝子発現を向上し、リポポリサッカライド (LPS)誘導性の破骨細胞の形成を阻害するなど、免疫細胞にも機能することを明らかにしている(同研究は、鶴見大学歯科矯正学講座・菅崎弘幸准教授らとの共同研究である。特願 2017-062656)。本内容は、歯列矯正後の後戻りの防止や、リウマチによる骨融解、細菌誘導性の骨吸収抑制への応用が期待でき、研究を進めているところである。

 以上のように、カテキン結合ゼラチンは環境を整える多様な効果を持つが、EGCG本来が持つ多機能性を考えると、さらなるメカニズムを具備している可能性も考えられる。現在、それらのメカニズム解明も幅広く進めており、その一部では骨形成に関わる知見も得ていることから、今後報告を行う予定だ。

 

おわりに

 ふと書店において目に留まった『世界を変える100の技術』を購入して読んでみると、ビジネスパーソンが2030年に期待する技術として再生医療が上位にあげられるなど、再生医療に対する社会からの期待は極めて高い。本稿では、主に前半で組織再生向上に向け細胞外環境を整えることの重要性を記載した。そして、後半は植物由来物質の潜在能力、そして、カテキン結合ゼラチンの紹介だった。

 筆者らは主に飲料やサプリメントの成分としての応用が主であった多機能のEGCGに材料学的考えを持ち込み、EGCGに高分子を結合させるという一工夫を施し、細胞外環境を調節しうる新たな再生材料として開発に取り組んでいる。これまでのカテキン研究においては、高分子と結合させるという視点が珍しかったと伺っており、本材料はお茶の研究で長い歴史を持つ茶学術研究会や、カテキン学会からユニークなカテキンの応用研究として取り上げていただいた。しかし、カテキン結合ゼラチンが将来的に臨床応用まで到達できるかは残念ながら今のところ全くの不明である。

 現在はより最適な骨再生能、周囲環境制御能を探すため小動物でのスクリーニングを進めている段階。臨床応用に向かうためには、大型動物での確認実験は避けられず(むしろ大型動物実験からが本番となる)、死の谷(開発段階から事業化への大きな関門)を越える必要があるなど、困難な道のりが待っている。

 しかしながら、費用対効果に優れた同材料は改良が容易で、多くのトライアンドエラーを行える環境にある。さらに、本研究で用いた水中合成法h、環境に優しく、なおかつ同様の手技を応用することで他の薬剤や高分子に交換することも容易。先達の先生方が、様々な苦労を一歩一歩突破して再生材料の臨床応用へと辿り着いたように、頑健な基礎実験をベースとして、道のりは遠いが、いずれ本材料が臨床応用に到達できるよう、チーム一丸となって研究を進めているところである。

2020年4月 1日 (水)

Science~緑茶由来カテキンを応用した新規骨再生材料開発~⑤

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6. 細胞播種担体としての応用

 幹細胞を用いた治療はいまだ歯科臨床に届いているとは言えないが、唇顎口蓋裂やがんなどで生じる広域骨欠損にとって細胞応用は有望な選択肢となることは間違いない。ここでは広域骨再生への応用を目指した幹細胞と、vhEGCG-GSの併用に関する知見を紹介する。

 近年筆者らは、生体外においてEGCGが単独でも脱分化脂肪(DFAT)細胞の骨芽細胞分化を誘導する知見を得た。本結果は、多能性幹細胞・前駆細胞を用いた骨再生治療において、EGCGを含むvhEGCG-GSが有望な細胞播種担体となりうる可能性を示していた。この背景をもとに、脂肪由来幹細胞(ADSC)やDFAT細胞とvhEGCG-GSの併用による骨再生実験を行った。実験モデルとしては、イヌなどの大型動物での実験が望ましいが、同材料が持つ効果のスクリーニングを兼ねて、ラットに先天的に存在する下顎正中部の欠損を用いた。同モデルは、頭蓋冠骨欠損モデルと異なり、先天的に骨が欠損している部位であることから、より骨再生が困難なモデルである。事実、埋入物がない場合、埋入8週においても骨形成はほとんど認められない。一方、vhEGCG-GSとDFAT細胞やADSCを併用して埋入した群では、vhEGCG-GS単独や真空熱処理ゼラチン単独、真空熱処理ゼラチンとそれぞれの細胞を同時埋入した群よりも優れた骨形成を認めた。

 生体外においてそのメカニズム解明の一端を試みたところ、細胞は真空熱処理ゼラチンに比べてvhEGCG-GSに有意に接着。材料学的評価にて、材料の水に対するぬれ性やゼータ電位を調べたところ、真空熱処理ゼラチンが疎水性を示したのに対し、vhEGCG-GSは親水性を示し、ゼータ電位などでも差が認められた。細胞接着性とぬれ性、ゼータ電位の関係は複雑ではあるが、細胞の接着を促すタンパク質の吸着挙動に影響を及ぼしたと考えられる。また、vhEGCG-GS上では、リン酸カルシウムの沈着が促進した。

 リン酸カルシウムの沈着には、局所的なリン酸やカルシウムのイオン濃度の変化が関与する。リン酸やカルシウムそれ自体が幹細胞の骨芽細胞分化を促進することが知られており、担体周囲のイオン環境の変化は骨再生に影響をもたらすと考えられている。vhEGCG-GSお数ある材料学的性質において、生体内でどの因子が強く影響を与えたかは、いまだ不明である。しかし、以上の結果は、vhGCG-GSは細胞播種担体として使用された場合、EGCGが持つ薬理作用だけでなく、担体周囲のイオン濃度の変化や、担体表面性状などの様々な性質を変化させ、骨再生を促しやすい環境を構築したと推察された。

2020年3月31日 (火)

Science~緑茶由来カテキンを応用した新規骨再生材料開発~④

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5. カテキン結合ゼラチン

 EGCGや他のカテキンは、多様な薬理効果があり、細胞自身への働きかけや、細胞周囲の環境に影響を及ぼす潜在能力を持つ。では、骨再生領域に対してEGCGはどの程度その効果が報告されてきただろうか。

 筆者らが研究開始した2012年度当時において、EGCGが生体外(in vitro)で骨芽細胞の機能を高める研究や、幹細胞の骨芽細胞分化を促す報告などはすでに存在していた。これらはEGCGを用いた骨再生材料開発への足がかりとなる知見であったが、一方、生体内(in vivo)で骨再生に成功した論文は乏しく、EGCGとα型リン酸三カルシウムを混合した研究がみられるのみであった。EGCGは広く知られた物質であり、これまで他の骨再生医療研究にも試されてこなかったとは到底考えられず、筆者らはEGCGの構造を再検討してみることにした。

 その結果、ポリフェノールであるEGCGは、カルボキシル基やアミノ基に比べ反応性が乏しい水酸基で囲まれていることに気が付いた。この洞察をもとに、筆者らは in vitro では骨芽細胞に活性を与えるEGCGが生体内で骨形成能を発揮できない要因として、「EGCGは患部に単純に注射される、あるいは何らかの材料と単純混合されて埋入された場合、その低反応性によって患部に留まることができず、in vitro同様の薬理効果が発揮されていない」という一つ目の仮説を立てた。さらに、この仮説から「患部での貯留性が高く、生体親和性が高い高分子とEGCGを化学的に結合させることができれば、生体内でも骨再生効果を発揮できる」という二つ目の仮説を構築するに至った。

 これらの仮説と、過去にゼラチンを用いて行った骨再生研究の経験をもとに、EGCGをゼラチンに結合させたEGCG結合ゼラチンスポンジ (EGCG-GS)の研究開発に着手した(特許第6355959号)。高分子には多様な候補が考えられるが、高い生体分解性、入手のしやすさ、価格、合成方法との相性や過去の成功体験等を総合的に考慮し、ブタ皮膚由来 Type A ゼラチンを選択。

 高分子とEGCGを結合させる合成法には、ゼラチンのカルボキシル基とEGCGの水酸基でエステル結合を形成する水中合成方法を用いた。一般的に高分子の合成には有機溶媒を用いるが、環境問題や有機溶媒の細胞為害性を考え水中での合成法を選択。実際合成を行ってみると粉体状の物質が多く合成されたが、臨床応用の容易さを考え、様々な条件を探索、最終的にスポンジ状を形成しうる条件を見つけた。

 その後、同材料の骨再生能をマウス頭蓋冠に形成した臨界骨欠損を用いて評価した結果、EGCG-GSによる骨形成の促進が認められた。一方、熱架橋ゼラチンにEGCGを単純に滴下浸漬した群では骨形成が促進されなかったことから、前述した仮説の一端を立証したと考える。

 EGCG-GSはEGCGの薬理作用を生体内で発揮させたが、スポンジ自体は脆弱であるとともに骨再生能も十分とは言えず、筆者らはEGCG-GSのさらなる改良に取り組んだ。コラーゲンやゼラチンは、真空熱処理を施されると熱架橋が形成され溶解性が低下することが知られている。ゼラチンの溶解性の低下は細胞に頑健な足場を提供することにつながると予想され、同技術をもとに「EGCG-GSへの真空熱処理は操作性・骨形成能をさらに高める」との仮説を立てEGCG-GSの改良に取り組んだ。以降、真空熱処理(Vacuum heated : vhと示す)によって処理されたEGCG-GSをvhEGCG-GSと表記。

 その結果、vhEGCG-GS埋入群では、EGCG-GS群に比べ顕著に高い骨形成を示した。ラットの頭蓋冠骨欠損モデル内での結果ではあるが、わずか4週で9mmの大きな骨欠損がvhEGCG-GSによって促進され新生骨でほとんど閉鎖された。最適条件下での比較は行えていないが、同様の動物モデルを用いた場合の自家骨と比較してもvhEGCG-GSの骨形成量は遜色なく、vhEGCG-GSが自家骨に匹敵する骨再生能をもつ可能性が示唆された。

2020年3月30日 (月)

Science~緑茶由来カテキンを応用した新規骨再生材料開発~③

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4. カテキンとエピガロカテキンガレート (EGCG)

 カテキンは多様な生理活性を持つ。

 ※   カテキンが持つ主な生理活性

 抗酸化、抗突然変異、抗がん、抗動脈硬化、血中コレステロール低下、血圧上昇抑制、血糖上昇抑制、血小板凝集抑制、抗菌、抗ウイルス、虫歯予防、 

 抗肥満、抗アレルギー、腸内フローラ改善、消臭、環境ホルモンの作用抑制、脳障害軽減等

 特に、減量効果を期待して様々なカテキン入り飲料や食品が売られていることもあり、カテキンの名を知らない方は少ないと思われるが、広義にはカテキンとはフラボノイド系、ポリフェノールの一種。緑茶には、(-)-エピカテキン(EC)と(-)-エピガロカテキン(EGC)、およびそれらの没食子酸エステルである(-)-エピカテキンガレート(ECG)と(-)-エピガロカテキンガレート(EGCG)のカテキンが含まれていることが知られている。

 乾燥茶葉中でそれぞれのカテキンが占める比率は、ECが10%、EGCが22%、ECGが11%、EGCGが54%程度と、EGCGが特に多く含まれている。ECは、他にリンゴ、ソラマメ、ブドウなど他の植物からも得られるカテキンであるが、EGC、ECG、EGCGは茶に特徴的なカテキンだ。

 最も強い生理活性を持つEGCGは細胞生存や増殖、細胞分化、細胞外基質分泌などに影響を及ぼし、医療応用でもがん、心疾患、肥満、口腔感染症、糖尿病などのほか、多くの疾患に対して抑制や予防効果を発揮することが知られている。そのメカニズム解明も他の植物由来物質より進んでおり、EGCGが効果を発揮する機序の一端として、緑茶カテキンレセプター(67LR)がすでに発見されている。同レセプターは特に、抗がん作用との関係が精力的に調べられている。また医薬品としては、原征彦らが陰部イボ治療薬として、EGCGを含有する茶カテキン軟膏をアメリカFDAの厳密な審査を通過させ、実用化にこぎつけている。 

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