日記・コラム・つぶやき

2018年12月12日 (水)

海洋プラスチック汚染とは?パートⅡ―⑥

続き:
4-3 プラごみの発生を防止する取り組み
 プラごみに限らないが、廃棄物を減らす・なくすために、「3R」が謳われてきた。Reduce(減らす)・Reuse(再利用する)・Recycle(リサイクルする)だ。3Rとはいいながらも、「減量と再利用に努め、残りはリサイクルすればいい」と、リサイクルに期待がかけられている場合も多い。
 しかし、プラスチックに関しては、現時点で9%しかリサイクルされていないこと、そもそもプラごみの発生量が大きすぎて、現在のリサイクル施設では対応しきれないことから、「3Rでは不十分だ」「3Rではなく、5Rを採り入れるべきだ」という研究者の間で大きくなっている。
 5Rとは、3Rに「repurpose」(異なる用途に再活用する)を加え、そもそも3Rの前に「refuse」(拒絶する)を置く考え方だ。そして、「リサイクル」は、他の選択肢がない場合の最後の手段として位置づけられる。
 身近なレジ袋を例にとると、その「製造・販売・利用を禁ずる」ことなどがrefuseにあたる。「レジ袋に課金する」「マイバック持参を奨励する」などによって、その枚数を減らす取り組みがreduceだ。「もらったレジ袋を再利用して、新しいレジ袋をもらわなくて済むようにする」のがreuseで、もらったレジ袋を「別の用途に活用することでごみにしない」ことがrepurposeだ。そして、最後に、「レジ袋を回収して、リサイクルする」recycleが来る。
 世界では、「リサイクルは最後の手段であり、使用禁止や異なる素材への転換も含め、そもそも使用をゼロにする」取り組みが進んでいる。UNEPの2018年のレポートによると、現在、使い捨てのプラごみを減らすために、禁止・課金を行っている国は60ヵ国を超えている。
 レジ袋やビニール袋の使用を禁止・制限している国(地域)を見てみよう。アジアでは、インドネシア、バングラデシュ、マレーシア、カンボジア、台湾などに加えて、インドもプラスチックの袋の販売と使用を禁止し、カトラリー(ナイフ、フォーク、スプーンなど)、袋、カップ、および他のプラスチック製品の一度のみの使用も禁止している。また、中国も超薄型ビニール袋の使用を制限し始めた。
 アフリカでは、ケニア、マリ、タンザニア、ウガンダ、エチオピア、マラウイ、モロッコ、南アフリカ、ルワンダ、ボツワナなどの諸国で、レジ袋やビニール袋は使用禁止か、課税対象となっている。たとえばルワンダでは、2008年からすでに、レジ袋やビニール袋の製造・輸入・販売・使用が全面禁止されている。ルワンダの空港に到着した旅行客のスーツケースにビニール袋が入っていれば没収されるのだ。2017年、ケニアでも同様の厳しい方策が導入されている。
 米国では、カリフォルニア州は州全体で、その他のいくつもの州では市や町のレベルでレジ袋やビニール袋の禁止や課税、特別リサイクル・プログラムの対象とするなどの対策を取っている。
 最も対策が進んでいると考えられているヨーロッパでは、EUレベルでの政策のほか、各国が海洋プラスチック汚染の防止に向けての法規制などを進めている。2015年12月に、欧州委員会は「サーキュラー・エコノミーに向けた EU 行動計画」を採択したがここにも「プラスチック戦略」への言及がある。
 2018年1月には、「2030年までに使い捨てのプラスチック容器・包装を域内でゼロにする」という目標を掲げた「プラスチック戦略」を表明し、具体策を打ち出し始めている。
 包装材および包装ごみに関する EU 指令やその改正を通じて、軽量レジ袋・ビニール袋の消費を減らすための方策もとっており、EU レベルの「海洋戦略枠組み指令」 (Marine Strategy Framework Directive : MSFD) にも海洋ごみに関する条項がもうけられている。
 2017年11月に国際自然保護連合(IUCN)がまとめた「EU諸国の海洋プラスチック汚染に関する国家政策」概要を見ると、多くのEU諸国が具体的な削減目標を設定していることがわかる。たとえばベルギー、ブルガリア、クロアチア、キプロス、デンマーク、ドイツ、ギリシャ、アイルランド、イタリア、ラトビア、リトアニア、マルタ、スペイン、英国などだ。
 ベルギーでは地域レベルでも目標を設けていて、たとえばフランドル地方では「2025年までに海洋環境への流出を75%削減する」目標を掲げている。
 具体的な手法としては、レジ袋の削減を挙げる国が多い。たとえば、オーストリアでは、同国の農業・森林・環境・水管理省が主要な企業やNGOとともに、レジ袋の削減についての自発的な協定を結んでいる。「レジ袋よさようなら」と名づけられたこの取り組みは、2019年までにオーストリアにおけるレジ袋の枚数を半減し、一人あたり年間最大25枚に抑えることをめざしている。
 同様に、フィンランドでも環境省とフィンランド商工連合会がレジ袋の消費を削減するための「レジ袋協定」を締結している。
 また、ベルギー、デンマーク、ハンガリー、アイルランド、マルタ、ポルトガル、英国では、レジ袋に対する課税または料金を設けている。たとえば、英国は2016年に5ポンドの課徴金を導入。
 ベルギーでは、アルミホイルや使い捨てカトラリーなどにも同様の税金を導入。
 ブルガリア、クロアチア、ドイツ、リトアニア、ルーマニア、スロバキア、スウェーデンでも同様に課税・料金設定がされていると言っている。
 さらに厳しく、「禁止」に踏み切っている国も増えている。ベルギー、のブリュッセル地域では、2017年9月にレジでの使い捨てレジ袋の提供が禁止された。
 フランスでは、2016年8月30日、『2020年1月1日以降、使い捨てのプラスチック容器について原則使用禁止とする』という政令を公布。
 チェコ共和国にも、無料のレジ袋提供を禁止する包装法がある。
 イタリアでは、2014年以来、生分解性ではない軽量レジ袋・ビニール袋の配布が禁止。
 オランダでも2016年以来、無料でのレジ袋配布を禁止。
 また、化粧品のマイクロプラスチック(マイクロビーズ)に関する動きもある。
 イタリアでは「2019年までに化粧品に於けるマイクロプラスチック使用の全面禁止」を求める法律が議会で議論されている。
 スウェーデン、フランス、フィンランド、アイルランド、、ルクセンブルグでは「2020年6月までに、マイクロビーズを含む洗い流し式の化粧品の市場投入を禁止する」としている。
 英国でも同様に、化粧品やパーソナルケア製品に於けるマイクロビーズ禁止が提案されている。





2018年12月11日 (火)

海洋プラスチック汚染とは?パートⅡ―⑤

続き:
       <対策>
4-1 国際レベルの対応
 具体的な各国・地域の取り組みを見るまえに、海洋プラスチック問題に関する国際動向を見ておこう。
 2015年に策定された国連の「持続可能な開発目標」(SDGs)でも海洋汚染に関する目標・ターゲットが設けられ、各国の取り組みが進むきっかけの一つとなっている。目標14は、「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」となっているが、その下に設けられたターゲットの最初に「2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減すること」と定めている。
 2017年12月に開催された国連環境総会では、「海洋プラごみ及びマイクロプラスチック」に関する決議が採択され、これらに対処する際の障害及びオプションを精査する専門家グループ会合を招集することを決定した。2018年5月に第1回会合が開催されている。
 2018年6月にカナダで開催された G7シャルルボワサミットでは、先に述べたように、日本と米国を除く各国は、達成期限付きの数値目標 等を含む「海洋プラスチック憲章」を承認している。
 2017年7月に開催された G20 ハンブルグサミットで、G20 サミットとしては初めて、海洋ごみが首脳宣言で取り上げられ、「海洋ごみに対する G20 行動計画」を立ち上げろことが合意されている。
 このように国際レベルでの問題意識の共有と取り組みの推進は大きな潮流になっている。― 具体的にはどのように対策を打っていくのか?
 海洋プラスチック汚染問題への対策は、大別して二つある。一つは、「既に海洋に出てしまったプラスチック汚染を除去する」ことであり、もう一つは、「これ以上プラごみが海洋に流入しないようにする」ことだ。
4-2 海洋プラスチック汚染を除去する取り組み
 よく知られているのは、日本でも各地で行われている「ビーチ・クリーンアップ運動」だ。これは、海岸に漂着したごみを分別しながら拾い集め、その量や質に関する実態をデータとして集計する国際的な活動である。
 また、河川~海への流出を防ぐため、河川でのごみ広い運動が重要。
 また、技術を活用したさまざまな取り組みも行われているのだ。
 米国メリーランド州のボルチモア市では、ウォーターフロントに関わるさまざまな活動をしているNPO「Waterfront Partnership of Baltimore」が、地元の人々に「ミスター・トラッシュ・ホイール」として知られているプロジェクトを行っている。水力や太陽光の力を利用して、ジョーンズ・フォールズ・リバーを流れるごみを収集する。川の流れがホイールを回転させ、水中のごみを拾い上げてごみ運搬船に載せるしくみだ。水量が足りない時には、ソーラーパネルが発電する電力でホイールを駆動する。ごみ運搬船が満杯になると、ボートで曳航され、次の運搬船がやってくる。
 オランダでは、河川から海へのプラごみの流入を止める為に、気泡のカーテンを川の中に設けるという新技術が開発されている。エンジニアリング企業が開発した「The Great Bubble Barrier」は、水路の底に置かれたチューブの穴から気泡を発生させ、川底~水面までカーテンのように”遮断”する。船や魚は自由に行き来ができるが、プラごみは下~上へと上昇する”気泡のカーテン”にひっかかって水面に浮上する。川の流れに対して斜めに設置すると、川岸にプラごみが集まり、回収・除去がしやすくなるという。
 既に海洋に出てしまったプラごみを回収しようという取り組みもある。
 先進的な技術を活用して、海洋プラごみを回収する「The Ocean Cleanup」プロジェクトは、600mの長さのフローターを海面に浮かべ、その下についている3mの深さの裾部分でプラごみをとらえるものだ。
 海流と風力と太陽光発電を用いるパッシブシステムで、外部からエネルギーを注入することなく、稼働する。2018年9月にプロジェクトがスタートしており、全面稼働すれば、「巨大な太平洋ごみ海域」のプラごみの半分量を5年間で回収できるという。




2018年12月10日 (月)

海洋プラスチック汚染とは?パートⅡ―④

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 ● 海運業界
  海洋プラスチック汚染は船舶の推進装置や冷却システムを汚損し、修理、救助活動、負傷、生命の損失からその直接的なコストが生じる。また、生産性の低下やサプライチェーンへの悪循環~収益減少につながるといった間接的なコストもある。全体として、海運業界が被っている損失は、年に約2億7900万米ドルと推計している。
 ● 観光業界
  観光業は、海洋プラスチック汚染の主な原因であると非難されているが、一方で、被っている影響も大きい。APECによる2008年の推計によると、海洋ごみは同地域の観光産業に年間約12億6000万ドルの損失をもたらしている。
 ● 公共部門
  多くの地方自治体や中央政府が汚染除去のための清掃予算を増やさざるを得なくなっている。また、水路や下水道が詰まってしまうことも増えている。たとえば英国では、プラスチック製品である赤ちゃんのお尻拭きを下水システムから除去するために、毎年1億ポンドの費用がかかっているという。





2018年12月 9日 (日)

海洋プラスチック汚染とは?パートⅡ―③

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 <3-3 経済への影響>
海洋生態系に対するプラスチック汚染の影響は既に、漁業、海運業、観光業、そして公共部門にも見ることができる。2004年には「アジア太平洋経済協力会議(APEC) の海洋経済は、海洋ごみによって4210億ドルの損失を被った」と報告が出た
● 漁業
  漁業部門では、主に漁船や漁具の破損、漁獲量の減少等。業界全体の損失を見積もることは難しいが、一例として、EUでは、毎年漁船全体で約8170万ドルの損失が出ていると推定される。
  捨てられたり波にさらわれて失われた漁具は、「幽霊漁具」と言う事もある。海洋プラスチック汚染の中でも最も有害なものだ。2009年にUNEPとFAOは、毎年少なくとも64万トンの「幽霊漁具」が発生していると述べた。最近の研究によると、「幽霊漁具」は大きめのプラごみの約50%を占め、「巨大な太平洋ごみ海域」に漂流しているプラスチック汚染の重量の70%を占めている。
  こうした「幽霊漁具」等の海洋プラスチック汚染が生み出す現象が、「ゴースト・フィッシング」で、魚やその他の海洋生物に影響を与える。漁具は海に捨てられたのちも海洋生物を捕まえ、殺し続けるのだ。幽霊漁具のせいで、世界中に5~30%減少している魚類資源もあるのだそうである。
  海洋プラスチック汚染問題は、消費者の購買行動にも影響を与える可能性有り。
  UNEPは、「消費者は、海産物に、マイクロプラスチックが入っていると知れば、リスクが高すぎると考え、需要を減らすかもしれない。そうなったら、漁師や海産物業界の収益が減り、消費者にとっては栄養価値の高いタンパク質が失われることになりかねない」としている。
  次には、●海運業界、●観光業界、●公共部門へと――― と続ける。





2018年12月 8日 (土)

海洋プラスチック汚染とは?パートⅡ―②

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3-2 社会への影響
 海洋環境下のプラスチックが増えるにつれ、人間への潜在的な影響も増大する。
● 健康と食品の安全性
  食物連鎖の下から上までのあらゆる段階で、野生生物はプラスチックを摂取している。我々が食べる魚介類も例外ではない。しかし、海洋プラスチックとその添加物が食べ物を通してどのように人間の健康に影響を与えるかについてはまだわからないことが多く、現在多くの研究が進められている。
 国連食糧農業機関(FAO) は2017年に「マイクロプラスチックの栄養移行は魚介類における蓄積にはつながらず、生物濃縮性で有害な難分解性化学物質や添加物が人間の食事摂取全体に及ぼす影響はごくわずかである」と結論づけた(もっとも、食物中のマイクロプラスチックに関する知識はまだ十分ではないことを認め、さらなる研究が必要であるとも強調している)。
 それに対して、結論を出すには、さらに研究とデータが必要だが、多くの研究者が「プラスチックの栄養移行はすでに起こっている」と主張している。2015年、ロックマン(カリフォルニア大学)らは、インドネシアと米国での調査の結果、「調べた魚類・甲殻類のうち、50%以上に人為起源のプラスチック破片の証拠が見出された」としている。
 ベルギーのゲント大学の研究によれば、海産物(特に牡蠣のような貝類)を大量に消費するヨーロッパ人は、一人当たり毎年11,000個ものマイクロプラスチックを摂取している可能性がある。
 他方、牡蠣などの貝類からの摂取は、日常的に住居内の合成繊維がはがれ落ちたものを食事中に摂取している量に比べたら大したことはない、という研究者もいる。
 実際には、最も基本的な食べ物からもマイクロプラスチックを摂取しているリスクがある。ハチミツ、砂糖、ビール、食塩の中にもマイクロプラスチック粒子が見出されている。
 我々が飲んでいる水の中に存在しているかを調べた最近の研究では、水道水では159サンプルのうち81%に、ペットボトルの水では世界の上位ブランドの11社から集めた250サンプル中93%にマイクロプラスチックが見つかった。これらのマイクロプラスチック粒子の大半は、我々の衣類などに使われている合成繊維から来ていると考えられている。
 しかし、プラスチックやその添加物が人間の健康に及ぼす悪影響への懸念は、食事を通しての摂取にとどまらない。ビスフェノールAやフタル酸エステルといった可塑剤やプラスチックへの化学添加物に慢性的に触れていることの悪影響に警鐘を鳴らす研究者もいる。
 こういった物質は、我々が日常的に触れているプラスチック製品に広範に使われている。たとえば、缶詰食品の容器、哺乳瓶、水のボトルなどだ。
 ある研究では、これらの合成化学物質は米国市民の90%以上の血中に存在しており、人体や野生生物の健康への様々な悪影響と相関していた。がんのリスクの増大、精子の質の低下、肥満などの内分泌・代謝障害、注意欠陥多動性障害(ADHD)などの神経行動障害などだ。
 研究者が特に懸念しているのは、こういった化学添加物が野性生物(ワニや魚を含む)および人間の内分泌系に大きな影響を与えているのではないかということだ。男性(オス)の性的な発育に永久的な損傷を与える可能性がある。さらに研究から、このような内分泌攪乱化学物質にされされた魚は、生殖に対する悪影響を子孫にも伝えることがわかっている。しかし、その影響の全容はいまだわかっていない。
● ケガや死の危険
  国連環境計画 (UNEP) の2016年の報告によると、水泳・潜水中にプラごみが身体にからまることで、ケガや死の危険すらあるという。また、2005年の米国の沿岸警備隊の報告によると、水面下の物質との接触によって、269件の船に事故が起こり、15人が死亡、116人が負傷している。プロペラのシャフトと右舷のプロペラに捨てられた漁業用ロープがからまってフェリーが転覆し、292人が死亡するという最悪の事態も起こっている。





2018年12月 7日 (金)

海洋プラスチック汚染とは?パートⅡ―①

 環境ジャーナリストである枝廣淳子さんは、本人もメンバーである環境省の「プラスチック資源循環戦略小委員会」では、思い切った素案が出されるなど、様々な動きがあった。以下、幅広い汚染の影響並びに世界で取られている対策を紹介し、最期の、今回の「プラ戦略小委」に出された素案について説明する。 コピーペー:
         <海洋プラスチック汚染の影響>
 海洋プラスチック汚染の悪影響は、環境のみならず、経済や社会にも及んでいる。
 3-1 環境への影響
 プラスチック汚染は地球上のあらゆるところに広がっており、結果、動物性プランクトンからクジラまで、約700種の海洋生物種に影響が及んでいるという。
 ● 「ゴースト・フィッシング」(幽霊漁)
 「ゴースト・フィッシング」とは、波にさらわれたり海に捨てられたりした魚網やロープ等が、その後もずっと海の中に残って、海洋生物に巻き付いたり海底に被害を与えたりすることだ。森林の伐採と同じ様な破壊的な影響をもたらすと考えられている。
 2015年に発表された研究によると、ロープや漁網といったプラスチックで身動きできなくなった海洋生物は、395種を下らないという。その多くがウミガメ、海洋哺乳類、海鳥で、死に至る場合も少なくない。
 ● 体内への摂取
  動物性プランクトンからアシカやクジラといった大型動物まで、プラスチック破片を餌と間違って飲み込むことがよくある。色や匂いが餌に似ている場合、間違ってしまうことが多い。プラスチック破片の摂取は、「消化管の閉塞による飢餓、誤った満腹感、健康悪化、および毒素の吸収が引き起こす潜在被害」につながる可能性がある。
  自然環境下で220種を超える生物がマイクロプラスチックを摂取していたという研究結果がある。英仏海峡で約500種の魚を調べたところ、そのうち 1/3 がマイクロプラスチックを摂取していたという研究もある。
 ● 化学毒性
  海洋生物がプラスチックを摂取するとき、有害な化学物質も体内に取り入れている可能性があると懸念する研究者も多い。有害な化学物質は、もともとのプラスチックの成分の一部の場合もあれば、プラスチックの表面に吸着したものもありうる。
  ファーブルス(国連環境計画グリッドアレンダールセンター)らは、「海洋のプラスチック粒子には、多くのよく知られた毒性物質を含め、分解しない有機化学物質を引き付ける力があるため、海洋生物の体内の毒性化学物質の源はプラスチックではないかとする研究が増えている」と述べている。
 ● 沿岸および海底の生息地の物理的かく乱
  たとえば、インドで最もプラごみの散乱している海岸の一つであるベルソバ海岸は、ウミガメが巣づくりをする場所だったが、海岸に蓄積したプラごみがあまりにも多きため、ウミガメは産卵しなくなった。二年間にわたって集中的にプラごみの除去作業を行ってやっと産卵を再開したのだった。
  海岸によっては、マイクロプラスチックが砂と混ざり合う濃度があまりにも高いため、砂の物理特性そのものが変化してしまい、透水性、栄養物や水の流れ、表面下の温度などに影響が出る場合がある。ウミガメの性別決定にも影響を与える可能性があるのだ。
 ● 外来種の移送
  プラスチックの破片は、「浮き島」として機能して、外来種の植物や動物に「移動する仮の家」を提供する可能性がある。研究者は、有害な藻類やウイルス、微生物の宿となってそれらを移送する可能性のあるプラスチック表面の塊を「プラスチック圏」と呼ぶようになってきている。
  こうして運ばれた生物種は、それまで存在していなかった場所に到達し、その場所の生物多様性に多大な脅威を与えかねない。
  





2018年12月 6日 (木)

Science 口腔潜在的悪性疾患→概念、口腔がんの予防 ⑦

続き:
※   (口腔がんのリスク要因)
   ◆ 調整困難な因子
     ◍ 年 齢
     ◍ 民 族
     ◍ 社会的階層 
   ◆ 調整可能な因子
     ◍ 喫 煙 (Ⅰ)
     ◍ 噛みタバコ (Ⅰ)
     ◍ 飲 酒 (Ⅰ)
     ◍ HPV 感染 (ヒトパピローマウイルス (Ⅰ)
   ◆ その他の可能性のある因子
     ◍ 紫外線 (口唇がん) (Ⅱ)
     ◍ GVHD (移植片対宿主病)
     ◍ 遺伝性症候群
     ◍ 義歯等補綴物による慢性刺激
     ◍ 口腔衛生不良
   ◆ ハイリスクを下げる因子
     ◍ 緑黄色野菜/果物の高摂取 (350g/日以上) (Ⅱ)
     ◍ 禁 煙 (早いほどよい)
     ◍ 規則正しい口腔清掃
     ◍ がん化学予防?
 Ⅰ: 科学的証拠が確実 ( Group Ⅰ)、ほぼ確実  ( Group Ⅱ)
        IARC (国際がん研究機関)        より引用
※※   (口腔潜在的悪性疾患 (OPMD) がん化予防
       ◆ 外科的切除
       ◆ 経過観察 (wait and see)
       ◆ リスク因子の除去
          ◍ 禁 煙
          ◍ 禁 酒 (節酒)
          ◍ 口腔清掃
          ◍ 緑黄色野菜、果物の高摂取
       ◆ がん化学予防 (Chemoprevention)
                              表として分類





2018年12月 5日 (水)

Science 口腔潜在的悪性疾患→概念、口腔がんの予防 ⑥

続き:
6) がん化学予防 (Cancer chemoprevention)
 Petoが1981年Natureに、「がんのリスクは血清中のレチノール(ビタミンA)レベルとβカロテン摂取量に反比例する」と報告して以来、フィトケミカル(植物性化学物質)が脚光を浴びて、さまざまな物質を用いたがん化学予防介入が行なわれてきた。
 一方で、βカロテンの推奨量以上の長期投与レジメンで有害事象(肺がん)の発症が増加したことは有名である。
(1)-抗酸化剤 (1986年~)
  口腔白板症は、直視下で観察し易く、組織試料の採取も容易なため、がんリスクと治療効果に対する分子生物学的マーカーの研究にとして優れたモデルとして化学予防の研究では早くから化学予防の対象疾患とされてきた。
  米国のMDアンダーソンがんセンターのグループなどは早くからこれに着目して、抗酸化剤であるレチノイド、カロテノイド(βカロテン、リコピン、βクリプトキサンチン等)を中心として臨床試験を進めてきた。
  抗酸化剤とは、いわば体のサビ、老化のもととなる活性酸素を分解してくれる物質で、がん予防に効果があるといわれている。実際の臨床研究ではRCTによる検証が必須であり、治療の一次アウトカムは病変の縮小、二次アウトカムはがん化学予防だ。
  治療効果については、臨床的な病変の縮小率と病理組織型に加え、LOH、p53、cyclynD1、EGFR、Retinoid receptors、DNA content、proliferation antigen (PCNA、Ki67) などさまざまなバイオマーカーが用いられてきた。
  RCTでは上皮性異形成の程度で層別化割り付けを行うのが一般的で、介入群(治療群)と、非介入群(非治療群)もしくはプラセボ群に分けられ、投与は多くが内服による全身投与で、投与期間は3~12か月間で行われてきた。我々も口腔白板症を対象として低容量βカロテン、ビタミンCの1年間投与のRCTを行った経験がある。結果は、病変の縮小率、がん化予防効果について有意差はなく、有害事象もなかった。
  自然食品から摂取した微量栄養素と頭頸部がん発症との関係の関する後ろ向きの研究のメタ解析では、βカロテン、のリスク低減は口腔がんでは46%(95%信頼区間 : 20~63%)で、食物でのカロテノイド摂取は頭頸部がん発症予防効果があるとしている。
  一方、RCTを対象としたさまざまな化学予防剤のメタ解析では、その効果は、14%で、リスク比は1.14(95%信頼区間 : 0.72~1.81)であったと報告しているが、有意差は認められていない。今後、野菜や果物を丸ごと長期間摂取した際の口腔がんの発症を調べる臨床研究を行ってみる必要がある。
(2) シクロオキシナーゼ-2 (COX-2) インヒビター (1997年~)
  COX-2は、炎症巣のほかにがん細胞や、ポリープ等の前がん病変に高濃度に発現することが認められ、1990年代に米国で選択的COX-2阻害薬(NSAIDs) によるがん予防効果について多くの臨床研究が行なわれた。
  口腔領域でも扁平上皮がん、OPMDに対してセレコキシブを用いた実験研究が行なわれた。その後 NIH (米国国立衛生研究所)が臨床試験で重篤な心血管系障害リスクを認めたことから、その後の臨床研究に影響を及ぼした。頭頸部がんに対するメタ解析ではその有効性は認められていない。
(3) 分子標的薬 (2002年~)
  MDアンダーソンがんセンターのグループは、がん抑制遺伝子の機能消失(ヘテロ接合性消失)LOH in 3p and /or 9p を認め、がん化しやすい特徴を有する口腔白板症を対象として、がんの分子標的治療薬である上皮成長因子受容体 (EGFR) 経路を標的とするエルロチニブで、口腔がん未発症生存率をエンドポイントとする研究を行った。
  結果は、3年後の口腔がん未発症生存率から、介入群の治療の便益性は認められなかった。と報告している。同じグループは頭頸部がんの化学予防における問題として、高リスク患者を同定する協力体制が確立されていないこと、非がん患者における長期化学療法の忍容性が低いこと、化学予防の有効性を示すバイオマーカーの研究が十分でないことを挙げている。
7) 口腔がん予防の今後の展望
 OPMDに対するがん化予防については、がんの初期の生物学的変化を個別にいかに早く、正確に捉えることができるかにかかっており、その意味では今後個別医療が進む領域と思われる。
 がんのリスク軽減のために禁煙支援、食事指導、口腔衛生指導など、歯科医師、歯科衛生士が臨床現場で介入できることは多い。超高齢社会の中、歯科医療界は口腔がんの早期発見、予防に今後一層取り組んでいく必要がある。
  





2018年12月 4日 (火)

Science 口腔潜在的悪性疾患→概念、口腔がんの予防 ⑤

続き:
3) 禁煙
 禁煙はがんだけでなくほとんどの生活習慣病を予防するための最も費用対効果の高い保健介入である。
 喫煙関連の歯科・口腔疾患の多くは禁煙により改善することが知られている。喫煙による口腔がん発症オッズ比はメタ解析で3.4(95%信頼区間 : 2.4-4.9)とされており、禁煙して20年すると罹患リスクは非喫煙者と同じになるといわれている。
 OPMDの喫煙による疾患発症オッズ比は4.0(95%信頼区間 : 3.1-5.2)と報告されている。口腔がん・OPMD患者の喫煙率を調べたコホート研究で、口腔がんでは73.3%、OPMDでも口腔底がん62.5%と高い喫煙率(過去喫煙者を含む)を示していた。
 これはたばこ煙の直接暴露とともに、高濃度の発がん物質を含む唾液が口腔底に長期間溜まるためと説明されている。
 がん治療に際して早期に喫煙介入することが、がんの予後を左右し、また、がん治療による有害事象の軽減にもつながる。咽頭部がんでは、喫煙の継続により、再発や一次がん発症のリスクが高くなることが分かっており、治療後も禁煙を継続すると、生存率は伸び、再発率は20~30%低下する。
 禁煙でOPMD患者のがんリスクがどれくらい軽減するかはまだ分かっていないが、歯科医療従事者は禁煙支援を必ず行うべきである。
4) 禁酒(節酒)
 「酒は百薬の長」といわれるが、がん予防の観点からは有害である。過度のアルコール摂取は喫煙に続いて口腔、咽頭、上部消化管と同様のメカニズムで、代謝産物であるアセトアルデヒドータンパク質付加体の生成が関与していることが分かっている。
 アセトアルデヒドは強力な発がん物質で、因果関係は科学的証拠の最も高い Group Ⅰに分類。
 口腔がん発症に対する飲酒の人口寄与危険度割合、すなわち曝露群の疾病頻度のうちで、真に曝露によって増加した部分を占める割合は、システマティックレビューで18%、喫煙は25%で、両方合わせると相乗効果で40%にもなると報告している。
 現在、禁煙や節酒が口腔がんの予防にどれくらい寄与するかの科学的証拠は明らかになっていないが、適量以上の飲酒常習者に対する禁酒介入は必要である。
5) 食事
 「どんなものを食べているか言ってみたまえ。君がどんな人間であるかを言いあててみせよう」とは、ナポレオン時代のブリア=サヴァラン(司法官)の言葉であるが、毎日私たちが何を食べているかは病気の発症と大きく関わっている。
 疫学研究で緑黄色野菜や果物の積極的な摂取は口腔がんのみならず、食道がん、乳がん、前立腺がん、肺がん、膀胱がん、大腸がんのリスクを下げることが分かっている。
 微量栄養素としてビタミンC、βカロテン、リコピンなど抗酸化物質が、がん予防に有効であるが、あくまでも植物性食品そのものから摂取するのが最も望ましく、いわゆるサプリメントで栄養素のみを摂取することは推奨されない。
 むしろ、有害事象をきたすこともある。口腔がん発症と微量栄養素の低摂取との因果関係は、科学的証拠がほぼ確実といわれており、メタアナリシスでも確認されている。OPMDに関しては我々のコホート研究で、血清中の高βカロテン値は口腔白板症の発症低減[ βカロテン値が 1 に上昇した際のオッズ比0.160(95%信頼区間:0.029-0.866)] につながることを報告した。





2018年12月 3日 (月)

Science 口腔潜在的悪性疾患→概念、口腔がんの予防 ④

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<3. OPMDのがん化予防>
1) 口腔がんのリスク要因
 口腔がんの多くはOPMDを経て、がん化することが分かっている。OPMDの5%は5年以内にがん化するといわれているが、その5%を検出する有効なマーカーは現在見つかっていない。OPMDの notural history がまだ十分解明されていない。
 がん化を予防するためにはがんのリスク要因を知り、それを軽減する必要がある。口腔がんのリスクは調整困難なものと可能なものに分けられる。― 後で表に示す。※
 がんのリスク要因で最大のものは年齢(加齢)で、これは調整困難な因子である。一方、調整可能な因子で最大のリスクは禁煙である。その他、過度の飲酒、ヒトパピローマウイルス(舌根部や中咽頭のがん)の因果関係の科学的証拠が、IARC(国際がん研究機関)では確実としている。
 その他、可能性のある因子として、慢性的な刺激、口腔清掃不良など慢性炎症を引き起こす口腔内環境の影響が挙げられる。
 一方、リスクを下げる要因としては緑黄色野菜や果物の高摂取が挙げられる。また、がんリスクを下げる化学予防剤を長期間投与してがん化を予防する研究も1980年代から行われている。
 OPMDの治療の最大の目的はがん化を予防(がんの一次予防)することであり、次にがん化を早期に発見して(がんの二次予防)、適切に治療することである。
2) 外科的切除
 外科的切除は患者の性別、年齢、リスク因子、病変の部位、サイズ、病理組織学的悪性度により、メスによる切除、凍結療法あるいはレーザーによる蒸散が行なわれている。― 後で表に示す。※※
 臨床的に口腔白板症の非均一タイプあるいは紅斑を伴う紅板白板症は、がん化のリスクが高いため切除が行なわれることが多い。特に、病理組織学的(上皮性異形成)グレードが中等度以上の場合や、がん化率の高い増殖性疣贅状白板症では切除が行われる。
 紅板症はがん化率が50%といわれており、一部は既に浸潤がんを呈していることがあるため早期切除が高く推奨されている。
 一方、科学的エビデンスを世界に提供しているコクランレビューは、がん予防としての口腔白板症に対する外科的切除については、ランダム化比較試験(RCT) が無いため、その有効性は明らかではないと結論付けている。
 OPMD の外科的切除は孤立性であれば切除可能であるが、多発性、広範囲の場合は困難なことが多い。 OMPD の中には切除した部分とは別の正常粘膜と思われるところからがん化することもある。
 この概念は1953年 Slaughter により提唱され、「Field cancerization (発癌の素地)」という。
 結論として外科的切除ががん化のリスクを下げるかどうかのエビデンスはなく、現時点では OPMD の外科的切除ががん化の予防になるかは不明。
 英国の口腔外科グループは、中等度異形成の OPMD に対する外科的切除と経過観察を比較する多施設前向き RCT の実施の必要性を提唱している。





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