日記・コラム・つぶやき

2020年1月26日 (日)

関西電力の企業ガバナンス ②

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関西電力は脅かされた”被害者”か?

 岩根社長は金品授受の記事が流れた翌日に記者会見し、事実を認め、元助役に長年にわたって脅かされ、返そうとしたが返せなかったと釈明した。元助役は広い人脈を持ち、高浜原発の誘致や地域のとりまとめに力を発揮した。だが、すぐに激高する「特異な性格」の持ち主で、些細なことで「原発運営を妨害してやる」と関電の担当者を脅かしたという。

 もう20年以上も前に、大企業にたかる「総会屋」という勢力がいた。彼らは企業の弱みを握り「株主総会で騒ぐぞ」などと脅かして金品をむしり取っていた。その後、企業の利益供与に対して厳しい刑罰が科せられるようになり、総会屋はほぼ姿を消した。

 総会屋のように「脅かして金を受け取る」行為なら、カネ目当てと理解できる。だが、元助役は脅かして金を受け取らせていた。原発を介して結びついた関西電力と元助役。この関係の裏面に、どんな”深い闇”があったのだろうか。

 原発が立地する地元には、電力会社や国から多額の「原発マネー」が流れ込む。今回のスキャンダルの発覚は、金沢国税局が、高浜町の建設会社「吉田開発」の金の流れに目を着けたことが発端だ。この建設会社は、2011年の福島第一原発の事故後に原発に対する規制が厳しくなったことで、関西電力から多額の工事を受注していた。

 国税局は2018年の初めに建設会社と元助役に税務調査に入った。建設会社から元助役に”裏金”が流れ、そして元助役から関西電力の幹部に、多額の資金が渡っていることをつかんだ。

 関西電力が払った原発工事代金で地元業者が潤い、業者から”裏金”を受け取った元助役が関西電力幹部に金品を渡す。これは「原発マネーの還流」と言うほかはない。もとは消費者が納めた電気料金だ。「電気料金→関西電力→建設業者→元助役→関西電力幹部」という図式だ。

 関西電力は「元助役の資金の出所はわからない」とし、「原発マネーの還流」とは認めていない。関西電力は元助役に、地元に発注する工事についてたびたび説明していたが、大雑把な内容だったという。高浜町周辺には、この業者以外に原発がらみの工事を発注できる業者はおらず、業者に便宜を図った形跡はなく、工事発注に問題はなかったと説明している。関西電力のこうした説明に納得する人はいるのだろうか。

2020年1月25日 (土)

関西電力の企業ガバナンス ①

今沢 真(毎日新聞「経済プレミア」前編集長)さんは述べている。 「世界 1」よりコピーペー:

 驚きあきれるしかないスキャンダルが、関西産業界のトップ企業で明るみに出た。関西電力の社長や会長ら幹部20人が、原子力発電所のある福井県高浜町の森山栄治元助役(故人)から長年にわたり多額の金品を受け取っていたというのだ。2019年9月末、共同通信の報道で発覚した。

 20人が元助役から受け取っていたのは、現金、商品券、金貨、金杯、そして米ドル。小判や金の延べ棒、それに仕立券付きスーツもあった。12年間にわたって総額で約3憶2000万円相当になる。原子力部門を中心にばらまかれ、うち2人には1億円超が渡っていた。

 岩根茂樹関西電力社長が金品を受け取った場面を紹介する。2017年初め、商都・大阪にそびえ立つ関西電力本社の応接室で、岩根社長は元助役の訪問を受けた。社長は前年に就任したばかりで、元助役から「就任祝い」として紙袋を受け取った。

 紙袋がズシリと重たかったかどうかはわからない。元助役が帰った後、同席した原子力担当の副社長から「高額の金品が入っているかもしれません」と言われ、社長は秘書に渡して開封させた。菓子折りの下に金貨が10枚包まれていた。1枚15万円相当で、総額150万円の贈り物だった。お代官様と悪徳商人が登場する時代劇のシーンが現代によみがえったようだ。

 副社長に「返そうとしても簡単には返せない、私たちが機会を見て返しておきます」と言われた社長は、秘書に指示して金庫に保管させた。社長は社内のコンプライアンス委員会の委員長だ。法令遵守はもとより、後ろめたいことをしてはならないと社員に徹底させる立場だ。

 八木誠会長(2019年10月9日付で引責辞任)が元助役から受け取ったのは商品券30万円、金貨63枚、金杯7セット、仕立券付きスーツ2着だ。〆て859万円相当。スーツは1着50万円相当の高級品だ。会長はこれを仕立てて着用していた。記者会見で問われると「スーツの値段がよくわからず、儀礼の範囲内と思っていた」と言い訳した。

 スーツを受け取っていたのは会長ら11人。全部で75着、3750万円相当になる。原子力事業本部長だった副社長(2019年6月退任、その後非常勤嘱託)は、毎年のように数着の仕立券付きスーツを贈られ、全部で20着になった。

 岩根社長、八木会長は「原子力ムラ」の出身ではない。社長は原子力事業を担当したことがなく、元助役に個別に会ったのは社長就任後一度きりだ。会長は常務取締役になってから原子力事業本部の本部長代理、本部長となり、はじめて元助役と関わりをもった。

 社長、会長が金品を差し出されたときに、なぜ会社として毅然と対応する方向に舵を切ることができなかったか。会長はこの点について「なんとなく過去の慣例に従ってしまった。非常に甘かった」と反省の弁を述べた。

 いま、大企業で不正会計、不正検査といった不祥事が相次いでいる。企業が求められているのは、社内の不正を見つけ、正していく体制だ。社長、会長はその司令塔だ。トップが不正を見て見ぬふりをし、後で明るみに出たときに、会社は深い傷を負う。関西電力はその轍にはまってしまった。

軍事研究をアカデミズムは拒めるか ⑤

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今後の課題

 私(池内)も参加する「軍学共同反対連絡会」は、主として大学の研究者に絞ってこの推進制度に反対してきた。それが大学からの応募が一桁にまで減少したことに少しは寄与したとは思っているが、残された問題を二点書いておく。

 一つは、大阪市大の研究者が2019年度にタイプAで採用されたが(彼は2016年にも採択されており、2度採択された最初の研究者となった)、軍事研究ではなく民生研究であるとの立場で、同じ理由で応募する大学はまだいくつもある。やはり、「推進制度の本質は軍事研究の推奨であり、それに加担するのですか?」と問いつづけねばならない。

 もう一つは、国立天文台の危険な動きである。国立天文台は、3年前に、推進制度に反対して応募しない教授会決議を挙げているのだが、天文台長がその方針を変えるかのような提案をしていると報じられた(東京新聞9月10日)。大学共同利用機関法人である国立天文台は、日本の天文学研究者に甚大な影響力があり、また「天文学と安全保障に関わる声明」を出して、「人類の安全や平和を脅かすことにつながる研究や活動を行わない」ことを宣言した日本天文学会を担う主要機関である。もしこのような方針変更が実行されれば天文学分野は総崩れとなるだけでなく、他の基礎科学分野に悪影響を与えることになるだろう。何としてでもこの動きを阻止したいと思っている。

2020年1月24日 (金)

軍事研究をアカデミズムは拒めるか ④

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採択課題から見た軍事研究の動向

 これまでの採択課題も含めて、その特徴をまとめておく。

① 水中通信・水中電力輸送・無人水中探査機などで、今回S1件、A2件採択され、これまでの5年間の累計でS4件、A7件、C1件にもなる。MDA(海洋状況把握)が重要な開発目標であることがわかる。続くのは赤外線部材・赤外線レンズなど、人工衛星に搭載して微弱赤外線信号を捕捉する技術開発で、今回S1件、A1件採択され、累計でS2件、A3件になる。これはSSA(宇宙状況把握)技術の一端で、MDA、SSAともに日米の安全保障の要である。

② テロ対策のための毒ガスの探知・分解技術が今回はA1件、C1件(累計でS1件、A3件、C1件)、セラミックス材や高分子塗膜など新素材開発が今回S1件、A1件、C3件(累計S3件、A3件、C4件)も目立つ。

③ 興味深いのは、最初の2年間は「昆虫あるいは小鳥サイズの小型飛行体の実現」というテーマ名であったのを、2017年、2018年度には「生物を模擬した小型飛行体実現」と変えたが、いずれも応募がなかったのが、今年度に「生物模倣による効率的な移動体」に変更するやA1件、C1件が採択されたこと。「バイオミメティクス」と呼ぶ、生物が獲得している特異な能力を人間の手で実現し、技術開発に応用する工学分野がさまざまな領域で広がっており、アメリカ国防総省のDARPAも重要プロジェクトとして力を注いでいる。遅ればせながら、装備庁も「飛翔体」を「移動体」へと広げることで新規分野を開拓しようとしているのだろう。

④ さらに今回、「クラスターダイナミックス」と呼ぶ多数の小型ドローンの群行動制御という新たな技術開発が採用された。サウジアラビアの石油基地がドローンの一斉攻撃で破壊されたと伝えられるが、ドローンは今や「貧者のミサイル」になりつつあり、その制御は軍事開発の目玉になっていくのだろう。

⑤ 物質・材料研究機構(物材研)の研究者がA2件、C3件と突出して多く採択されている。これまでの採択が2016年A2件、17年S1件、18年A1件、C2件と、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と共に公的研究機関として従来から採択件数が多く、装備庁御用達の常連となっており、軍事研究に邁進する研究所へ堕ちていくおそれがある。

⑥ 昨年度まで富士通、三菱重工、IHI、パナソニック、三菱電機、日本電気、日立などの大企業がタイプS及びAに多く採択されていたのだが、今年度はタイプSの東レ以外大企業からの採択がなかった。大企業からの応募が減少し、採択できる提案もなかったのだろう。他方で、S2件、A3件、C1件と、ベンチャー企業・大企業の子会社・技術者協会が採択されており、昨年度(ベンチャーと技術組合でS1件、A2件、C1件)からこの傾向がくっきり出るようになった。投資資金を集めるには必死のベンチャーが、一点勝負のような形で特殊技術を売り物にしているのである。

2020年1月23日 (木)

軍事研究をアカデミズムは拒めるか ③

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応募数・採択数の変化

 過去5年間の応募数と採択数の一覧(表 略)。タイプA→3900万円以下/年、3年間、シニア研究者向け、C→1300万円以下/年、3年間、若手研究者向け、S→総額20億円以下/年、5年間、リーダー的研究者向け、と表にある。2017年度にタイプSの大規模研究課題が加わって一気に予算が100億円台に増加した。内訳はタイプA・Cで総計約10億円、タイプSに総計約90億円で、それぞれ経年分も含めるのでタイプA・Cが3年累計30件程度(実績34件)、タイプSが5年累計25件程度(3年の実績16件)が恒常的に走っている状態が想定されているようである。

 データから読み取れることを纏めておく。

①応募者数が、109件→44件→104件→73件→57件と変化してきて、初年度の隆盛、2年目の激減、3年目の回復、と言えるが、4、5年目になるに従ってじり貧状態である。2年目の激減は安全保障関連法が国会で強行採決された翌年で、その記憶が生々しく残っており、軍事研究に手を染めることに対して研究者の多くが躊躇しためである。だから、3年目のペースが普通になるかと思ったのだが、4、5年目の応募者数は明らかに減少傾向で、装備庁も思案投げ首なのではないだろうか。

②明確に言えることは、大学からの応募数が58件→23件→22件→12件→8件と、一貫して減少したことである。採択数も4件→5件→0件→3件→2件となり、大学はこの推進制度を担う主要なプレイヤーではなくなりつつある。日本学術会議が2017年3月に発出した「軍事安全保障研究に関する声明」において、この制度により学術研究に権力の介入を招き学問の自由が阻害される危険性を指摘しており、かなりの大学がこれに呼応して、応募しない、軍事研究を行わない決意を表明していることが、この結果に繋がっている。

③公的研究機関の応募は、22件→11件→27件→12件→15件と推移しており、3年目から減少傾向は続いている。しかし、常連的な研究機関が存在し、採択件数も多くを占め、指定席のようになりつつある。一方、企業からの応募は、29件→10件→55件→49件→34件(採択は2件→3件→9件→10件→7件)と応募全体の過半数、採択のほぼ半分を占めるようになり、この推進制度を支える中核となっている。

④問題は装備庁が推進制度の目玉として2017年度から始めたタイプSで、応募要領には毎年8件程度の採用予定としていた。ところが、全体の応募数は18件→19件→6件(採択6件→7件→3件)と低調続きで、ついに今年度は応募数が採用予定数を下回り二次募集をすることになった。公的研究機関では応募数はついに0件となった。企業も応募数は12件→16件→6件に対し、採択4件→5件→3件とやはり低調で、大企業がそっぽを向き、後に述べるように、タイプAを含めて、ベンチャーや子会社などが採択される傾向が強まっている。

2020年1月22日 (水)

軍事研究をアカデミズムは拒めるか ②

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制度の概要

 推進制度は、防衛装備庁が研究テーマを示して公募し、将来の軍事装備品として使えそうだと判断した研究課題を採択し、莫大な研究費を提供する。

 各採択課題にはプログラムオフィサー(PO、装備庁の職員)が配置されるが、POは、研究に介入せず、成果の公表についてはPOに事前に届けるのみで後は自由、成果の特許権は日本版バイドール法に則って研究者に供与される(実は、契約時に問題のある条件が課せられているが、ここでは論じない)。

 なんだか良いことずくめのように見えるが、基本は軍事研究の募集であることを忘れてはならない。

 実は、この方式はアメリカ国防省に属する DARPA (国防高等研究計画局)が採用している方式で、研究者の自由度を保証することにより応募者を増やすとともに、研究者集団の動向を把握するという狙いがある。

 そして、採択課題の中で、将来の軍事装備にとり技術的に卓越した提案と認めると、国防省所属の研究所で本格的な開発を行うことになる。むろん、この段階では完全な秘密研究となる。

 日本では科学者の軍事研究の歴史はまだ日が浅いので、多くの研究者からの応募を得るため、とりあえず自由な民生技術の開発と思わせる戦術を採用しているのである。

 しかし、推進制度が定着し、その資金に多くの研究者が頼らざるを得なくなると、秘密研究に引き込まれていくことになるだろう。つまり、現在は魚釣りの撒き餌の段階というわけ。

2020年1月21日 (火)

軍事研究をアカデミズムは拒めるか ①

池内 了(総合研究大学院大学名誉教授)さんの小論文を載せる。「世界 11」よりコピーペー:

■ 安全保障技術研究推進制度

 防衛省の傘下にある防衛装備庁(―装備庁)は、軍事装備品の調達業務とともに、2015年度から新規装備品の開発のための競争資金による委託研究制度である「安全保障技術研究推進制度(―推進制度)」を実施している。これを「軍事研究」と呼ぶのは、募集要項に「防衛分野での将来における研究開発に資することを期待し、先進的な民生技術についての基礎研究を公募・委託します」と書かれていることで、成果を軍事利用する可能性があることが前提となっているためである。

 これまで応募した大学と交渉すると、この文章の後半部の「民生技術についての基礎研究の募集であると理解して応募した」と答えることが多い。だが、そもそも防衛装備庁が、文科省と同じ民生技術の開発研究に金を出すはずがないと考えるのが当然ではないかと思うのだが……。

 この推進制度が発足して5年経ち、制度としてそれなりに定着したことで、応募状況や採択課題の傾向について議論できるだけのデータが集積されてきたが、まだ紆余曲折が見込まれる側面もあり、この制度の将来について結論を出すことは時期尚早である。しかし、今年度の応募・採択状況を見ながら、科学者の軍事研究の現段階について纏めておこう。

2020年1月20日 (月)

Clinical ~超高齢社会における歯科医療の役割~⑥

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2) オーラルフレイルと口腔機能低下症

 口腔の機能低下を示す用語として、オーラルフレイルと機能低下症がある。2019年、日本歯科医師会は、オーラルフレイルの定義を「老化に伴う様々な口腔の状態(歯数・口腔衛生・口腔機能など)の変化に、口腔健康への関心の低下や心身の予備機能低下も重なり、口腔の脆弱性が増加し、食べる機能障害へ陥り、さらにはフレイルに影響を与え、心身の機能低下にまで繋がる一連の現象及び過程」と明記した。

 一方、口腔う機能低下症は、もともと2016年に日本老年歯科医学会から、「いくつかの口腔機能の低下による複合要因によって現れる病態」として提唱され、2018年に保険収載された病名。オーラルフレイル概念図が参考文献によると、口腔機能低下症は第3レベル「口の機能低下」のレベルに位置付けられる。

 口腔機能低下症とは、う蝕や欠損のような口腔内の器質的障害ではなく、口腔内の複合要因による機能低下の状態を指す。口腔機能は、加齢や疾患等様々な要因によって徐々に低下していく。口腔機能の低下はマスキングされやすく、1つの機能低下が他の機能によって補完されるため、自覚症状が低く、機能低下が進行してから気がつくこともある。そこで、口腔機能低下の原因となる各因子をデンタルクリニックで定量的に評価・診断することで、患者の口腔機能の低下を客観的に評価することができる。また、定期的な評価を行うことで、口腔機能の刑事的変化を把握でき、機能低下の早期発見、早期対応につなげることができる。

 口腔機能低下症の診断では、口腔機能を7つの下位症状に分類し、その下位症状の診断項目が3項目以上該当したときに口腔機能低下症であるとされた。(後で項目を述べる)

 口腔機能低下の状態は、栄養障害やフレイルといった高齢者特有の状態に繋がる前段階として考えるとよい。――→第2レベル「口の些細なトラブル」である。

 歯周病に対し て歯科疾患管理を行ってきた患者が高齢期になったときに、口腔機能の評価を行い、口腔機能低下症として診断された場合には、歯科疾患管理に口腔機能管理加算を加えて口腔管理を行っていくイメージである。継続的な管理には動議付けや、生活・栄養・訓練指導などが含まれる。この栄養や生活指導とは、口腔機能を維持し、栄養を考慮した食物を健康な口で食べ、栄養障害やフレイルを予防しようという意図がある。つまり、デンタルクリニックからフレイルや栄養障害の予防を発信していくことにもつながる。

 

● 口腔機能低下症の各項目の診断基準(3項目以上該当→口腔機能低下症)

口腔不潔           TCIスコアで50%以上

口腔乾燥           口腔水分計(ムーカス)にて27.0未満

咬合力低下          咬合力500N未満、または20歯未満

舌口唇運動機能低下      ディアドコキネシス (pa、ta、ka) の連続発音のどれかが6回/秒未満

低舌圧            舌圧測定器で30kPa未満

咀嚼機能低下         グミゼリーによる咀嚼でグルコースの濃度100mg/dl以下

嚥下機能低下         EAT-10 (Eating Assessment Tool-10) で3項目以上該当

 

2020年1月18日 (土)

Clinical ~超高齢社会における歯科医療の役割~⑤

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4. 口は栄養の入口

 

1) フレイル・サルコペニア・ポリファーマシー

 最近「オーラルフレイル」や「口腔機能低下症」といった言葉を聞く機会が増えたのではないだろうか。両者とも高齢者における口腔機能の低下を示す用語。口は栄養摂取の入口である。口腔機能が低下すると、栄養摂取も不十分となり、その結果、フレイルやサルコペニアのリスクが高まると考えられている。

 フレイルとは、日本老年医学会より、「加齢に伴って生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、生活機能障害、要介護状態、死亡などの転帰に陥りやすい状態」と定義されている。つまり、栄養摂取不良、身体の衰え(身体的フレイル)だけでなく、認知機能の低下やうつ状態(精神的フレイル)、引きこもりなどの社会活動性の低下(社会的フレイル)などによる要介護に陥りやすい状態を指す。フレイルの特徴は、その状態が徐々に進行すること、可逆性を有することなどがあげられる。このフレイルの一要因が、口腔機能の低下と考えられている。

 一方、サルコペニアとは、身体のみに注目し、加齢に伴って筋肉が減少する状態と定義される。アジア人におけるサルコペニアの診断基準では、握力と歩行速度のいずれか、もしくは両方とも低下を示し、さらに筋肉量の減少が認められた場合にサルコペニアと診断される。全身の筋力低下によるサルコペニアは頭頸部にも影響を及ぼす。全身の筋力低下とともに、顎口腔領域の筋力低下が進行し、歯の喪失により、咬合力や咀嚼能力低下していく。咀嚼嚥下機能に直接影響を及ぼす基礎疾患がなくても、サルコペニアが原因となって嚥下障害が起こることがある。そこで、2019年にはサルコペニアによる摂食嚥下障害について、代表4学会による合同のポジションペーパーが発表されている。

 また、高齢者が内服する多くの薬剤は、唾液分泌抑制や嚥下機能低下等の副作用を有している。そのため高齢者では、代謝不全、脱水、または様々な基礎疾患や、それらに対する多剤服用(ポリファーマシー)から口腔乾燥を引き起こしやすい状態にある。

 以上のように高齢者では、様々な要因から口腔機能が低下しやすい状態にある。口腔機能の低下は、栄養摂取不良から栄養障害につながり、最終的にはフレイルリスクが高まる。そのため、これからの超高齢社会ではフレイル予防のための口腔機能低下へのアプローチが重要となる。

 

■ 口腔乾燥の原因

 

唾液腺の機能障害→シェーグレン症候群、頭頸部腫瘍への放射線治療

薬物の副作用→抗精神病薬、抗コリン薬、降圧剤など 口渇を副作用とする薬剤→重大な副作用:15件 副作用:624件

全身的要因→1.代謝性:脱水、糖尿病、腎不全、心不全、甲状腺機能亢進、下痢、尿崩症

     →2.蒸散性:開口、口呼吸、夜間口腔乾燥

 

2020年1月17日 (金)

Clinical ~超高齢社会における歯科医療の役割~④

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3) Oral Health Assessment Tool (OHAT) 日本語版

 アセスメントシートの要件は、煩雑でなく、歯科医療者でない看護、介護職の介助者が短時間で簡単に評価できる簡便性にある。また、簡便な口腔アセスメントシートを使用することで、他の職種との共通言語を持つことが可能となる。口腔ケアのアセスメントシートはいくつかあるが、ここでは Chalmers らによって施設入所の要介護高齢者の口腔アセスメント用に作成されたOral Health Assessment Tool (OHAT) 日本語版をご紹介する。 OHATは、自分で口腔内の問題を表出できないような要高齢者の口腔問題を見つけて対応するために開発され、多くの言語に翻訳され、妥当性と再現性が検証されている。

 介助者が OHAT を用いて口腔スクリーニングを行い、必要があれば歯科依頼を行うという連携ツールとして使用できる。日本語版は、著者らの許諾を得て筆者が作成し、折り返し翻訳 (back translation) による確認も済ませてある。当科の研究活動・プロジェクトのウェブページからダウンロードして使用できるので、興味のある方は一覧してください(http://dentistryfujita-hu.jp/index.html,)。

 OHATでは、口腔内の評価8項目(口唇、舌、歯肉・粘膜、唾液、残存歯、義歯、口腔清掃、歯痛)を、健全から病的まで3段階で評価する。

 OHATの特徴は、衛生状態の評価だけでなく、義歯の使用状況や破折の有無、う蝕の本数など咀嚼に関連する項目が含まれていることである。アセスメントは一見すると手間が増えると思われるが、評価時間は慣れれば1分もかからず、口腔アセスメントとともに口腔ケアプランを設定することで、病棟全体での手技の標準化を図ることができる。

 

4) 多職種による口腔機能管理の実際

 ここでは当院看護部でのOHATを用いた取り組みを紹介。まず、看護師の口腔アセスメントと口腔ケア手技の勉強会を実施。口腔ケアの主体となる病棟看護師の口腔内を観察する目を鍛えて、口腔ケアの手技を向上させることは重要である。また勉強会の開催は、歯科口腔衛生士が看護師と顔見知りの関係になり、日常臨床でのコミュニケーションの向上にも役立つ。

 まず、対象患者の担当看護士が、入院時の全身フィジカルアセスメントとともにOHATを用いて口腔アセスメントを実施した。口腔ケアの回数は、経口挿管の有無、経口摂取の有無、セルフケアのレベルによって決定される。また、OHAT評価によって、粘膜ケアの回数を決定する。OHATスコアに準じた口腔ケアプランを、ベッドサイドに貼付し、患者ごとにケアが実施される。また、スコアに準じて歯科受診が必要と判断した場合には、歯科への依頼が検討される。

 急性期病院である当院では、1週間ごとにOHATの再評価が行われ、点数の変化によりプロトコルを変更していく。結果として、OHATスコアは、2週間後の再評価時には初回と比べて、全体の項目が低下傾向を示し、特に、粘膜の指標である口唇や舌、乾燥状態を示す唾液や歯面を中心とした清掃状態の項目で有意な改善を認めていた。

 歯科への依頼は、対象患者35名中12名(34%)であり、義歯の修理、調整なども適宜行われた。

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